さぁ、復讐の時間だ!
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
エインたちは部屋中を隈なく捜す。怪しいところばかりであったがテンテンは見つからなかった。ここでエインがある作戦を思いつく。それはマカロの特殊スキル「耳鳴り」を使ったものであった。
「……何だ、その特殊スキルは?」
最強勇者一行とボンボンはエインたちが耳を強く塞いだのを見て嫌な予感がする。それは的中した。マカロは息を大きく吸い込みフグが水を拭くように勢いよく叫ぶ。部屋中のオブジェが地響きを立てて揺れた。最強勇者一行とボンボンは、キーン! とした耳の痛みでしばらく動けずにいる。これがマカロの持つ特殊スキル「耳鳴り」の効果だ。
――コトンッ……
天井から一つの木製の額縁がさっきの振動で落ちてくる。エインたちが近寄ってそれを確認してみるとくたびれたスーツを着たテンテンとボロボロの作業着姿のボンボンが二人で笑っている写真が収められていた。
「あぁあ~クラクラするのー」
大きな黄金の甲冑の中から声が聴こえる。それは紛れもなくテンテンのものであった。アイリーンが冑を近くにあった金の延べ棒でべしべし執拗に叩く。すると甲冑から悲鳴がして
「わかった、わかったからやめちくれぇえ~!」
とテンテンの観念した声が部屋中に響いた。それを聴いて苦笑いするエインたち。テンテンは甲冑を脱いで聖剣シルヴァラールを名残惜しそうにアイリーンに渡す。こうしてエインたちは聖剣シルヴァラールを取り戻すことに成功したのであるが一つ気になることがあった。
「ドワーフのカジはどこにいるんだい?」
エリッサが周囲を見渡して言う。テンテンは耳を押さえながら
「天上街に小物店を作ってやった。そこにいると思う、多分」
「店の名前はなんていうんですか?」
エインがテンテンに尋ねると彼は
「手作り工房カジ」
とだけ答えた。するとルンルンがその店を知っていると言う。というのも彼女が心と心をつなぐ鏡、天具鏡を購入した店がそこであったのだ。興味を持ったエインたちはルンルンの話を聴いて「手作り工房カジ」へ行ってみたくなったのである。ダンダバ社長から頼まれた本物のヘヴンズソルトの製造方法を記した手帳も、アイリーンの聖剣シルヴァラールも取り戻した彼らにはここに長居する理由は無かった。のだが……
「ねーぇエイン。私良い事思いついちゃった♪」
「君のためだったらボクなんでもするよ!」
アイリーンのノリノリな顔を見て青ざめるテンテン。エインたちはひそひそと耳打ちをするとにやっと笑ってエレベーターを降りていく。
「な、何する気かなあの子達は~?」
テンテンが社長室の窓から冷凍コロッケ製造所へと走っていくエインたちを見つめていた。次の瞬間大爆発が起き黄金の冷凍コロッケ製造所からゲキヤスフーズの作業員の天使たちが勢いよく飛び出してくる。これはルンルンが地獄に逝く事になったキッカケを作ったことや、そのためにエインが地獄で味わった苦しみを晴らすための彼らの「復讐」であった。
「あぁーー! あいつらなんて事を~私の冷凍コロッケ製造所が滅茶苦茶じゃないか!!」
「……父さん。その前に心配すべきなのは作業員の天使達でしょう」
「あいつらはいくらでも蘇る! だが金は、財産は減っていくのだ~!! あぁ、もうおしまいだぁ……!」
膝をつき頭を抱えるテンテン。
「もう一度最初からやり直そう父さん。この頃の僕達のように」
ボンボンが木製の額縁に飾られた古ぼけた写真を見つめながら言う。テンテンは崩壊する冷凍コロッケ製造所を見ながら
「……今更どうすればいい」
と言った。
「僕達にしか作れない冷凍コロッケを作ろう」
その言葉にテンテンはギラギラ光る社長室の中でかつての心を取り戻す。「美味しい」はお金を払えば言ってもらえるものではない。ゲキヤスフーズのコロッケは安いから買ってもらっていたのだ。ならば誰もが唸る「美味しい」冷凍コロッケを作ろう。そう彼らは固く誓った。これは彼らのまた別のお話。




