奪われた聖剣シルヴァラール
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
冷凍コロッケ製造所の寮の部屋割りと同じメンバーで就寝していたエインたち。みんなが寝静まった深夜に怪しい人影が三つ。月明かりに照らされたブロンドの髪がカーテンのように揺れる。三つの影はアイリーン達の寝室の窓を開けて静かに進入した。
「……あれだね」
囁きながら聖剣シルヴァラールに手を伸ばす女性のシルエットをした影。アイリーンたちは一日遊んで疲れたのか全員ぐっすりと眠っている。三つの影は聖剣シルヴァラールを窓の外へ持ち出しそのまま暗い繁華街へと走り去ってしまった。
朝になってみんなが起きはじめた頃アイリーンの大きな声でホテルは慌しくなる。エインは彼女の身に何かあったのかと思い着替えるとすぐさま駆け足でアイリーンたちの部屋へと向かった。
「どうしたのアイリーン!」
「無いの、聖剣シルヴァラールが……ここに置いてたはずなのに……」
あとで追いついてきたみんなにも事情を話すアイリーン。すると偶然通りがかった強面の中年男性が馬鹿にしたように
「女部屋で窓に鍵かけない奴なんて聞いたことねぇぜ! 襲われなかっただけでも良かったと思うんだな」
と言って階段を降りていく。アイリーンはそんな彼に思いつく限りの嫌味を言っていた。だが男の言うことも一理ある。とりあえず朝ごはんを食べながら話そうという事になって地下へ降りた。様々な料理が色とりどりに並んでいる。天使たちはその中から好きな物を取ってテーブル席に座り食していた。その様子を見て手を合わせながらシルヴァは枠で仕切られた白い皿を見つけては一枚手にする。
「ビュッフェなんて久しぶりねピアズ」
「ええ。そうですねシルヴァ様」
野宿ばかりしていたエインたちにとってそのような食事形式は体験したことが無かった。まるで花園のように彩られた華やかな空間。彼らはキョロキョロしてシルヴァたちの真似をしながらなんとかテーブル席に付く。魔王ディオウスはローストビーフの列に並んでいたが彼の目の前でなくなってしまった。
「……どんまーい」
ルンルンが通りがかりに魔王ディオウスに言う。そんな彼女がエインたちのテーブル席に運んできたのは、鯖の味噌漬け・玉葱と茸と鮭のマリネ・小盛りの鮪たたきご飯・コロッケであった。
「魚好きなの?」
エインが尋ねると「あぁまあね」とそっけなく返事し、いただきますと言うと黙々と無表情で食事を始める。そんな彼女に続くように彼らは箸やナイフ等を手に取り本題に入った。そこに魔王ディオウスの席は無く彼は必然的に独りで食事をすることになる。だが聞き耳を立ててちゃんとエインたちの話を聴いていた。何の手がかりも無いまま皿の料理だけが減っていく。ルンルンがコロッケに箸を突き立ててそのままかぶりついた時、勘のいい魔王ディオウスはなんとなく事の真相が見えてきた。彼はエインたちのテーブル席に近づいてこう言う。
「我の推測だが聞け。おそらく聖剣シルヴァラールはテンテンの手元にあるだろう。奴は窃盗団のフォカッチャーズを利用して高値でそれを買い取ったのだ。なぜって? 我ならそうするからだ」
「なるほど……あり得るな」
ピアズが紙ナプキンで口元を拭きながら言った。
(やっと……我に構ってくれた!)
感涙する魔王ディオウス。そうとなれば直接テンテンの社長室へ乗り込むしかない。全員が食事を済ませたあとチェックアウトをして外に出るとテンテンから貰った名刺を取り出した。
「現在地が天上街7丁目3番地の極楽ホテルだから、目的地の10丁目10番地までかなり歩くなぁ……」
エインがホテルの前にあった地図のオブジェを指でなぞりながらみんなに言う。今度はピアズたちが目を点にして彼の話を聴いていた。
「お前たち、それでよく我のもとまで辿り着いたな……」
魔王ディオウスが呆れたように呟くとシルヴァがニコッと振り返り彼の足をガンッ! と蹴り上げる。あまりの痛みに跳ねる魔王ディオウス。
「ならタクシー使いなよ」
ルンルンが赤い髪をいじりながらそう言う。知らない言葉にエインたちは互いに顔を見合わせた。みかねた彼女はタクシーという物の説明をしてタクシー乗り場まで案内する。白い縦長の車が列を成して待機していた。
「これがタクシーという移動手段なのですね、私早く乗ってみたいですわ」
「ぼく姉さんと一緒がいいー!」
シャルロットとシャロンがルンルンに言われたように手を挙げる。エインたちも真似をすると複数台のタクシーが彼らの前で停まった。エインたちがそれぞれの車に乗り込むと広々とした空間にハーブの香りが漂ってくる。魔王ディオウスは角のせいで中に入れないため車の上に馬乗りになるしかなかった。とにかくこれでテンテンの所まで行くことができる。まだ真相は明らかではないが聖剣シルヴァラールを取り返すためエインたちはタクシーでテンテンの社長室に近いゲキヤスフーズの冷凍コロッケ製造所前まで移動することにした。




