まわるまわる二人の世界
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
――真っ先に青の箱に乗ったシャロンとシャルロット、コーリンは浮上していくにつれて小さくなっていく天使や繁華街の景色を見ながら感嘆の声を漏らす。夕日に照らされた街は万華鏡の如くキラキラと輝いていた。
「綺麗ですわねシャーロ」
「うん! 今日はいろいろあったけど楽しかったね♪」
シャルロットとシャロンが会話をしている時コーリンが大好きな動物が沢山いる施設、所謂動物園を見つける。彼は勢いよく立ち上がり窓に両手をつけて上空から様々な動物たちを眺めていた。若干ぐらつく箱。シャルロットが怯えたように、きゃっ! と言うとシャロンが
「危ないから座っててよ!」
と強めの口調でコーリンを叱る。
「いいのよシャーロ。コーリンちゃんは動物が好きなのですわね」
シャルロットがそう尋ねるとコーリンは嬉しそうに差し込んだ夕日を浴びながらいろいろな動物の話を始め出した。
――緑の箱に乗ったマカロとぺディシオン、アヴァロは無言で茜色の空や繁華街を感慨深く見つめている。男三人で観覧車というのも珍しいがそれはそれで風情があってよかった。夕日が彼らの視界をオレンジに初めた時アヴァロは二胡を弾いてある歌を詠う。
「あかつきに 心奪われ たゆたうも 此処に記せし 我が記憶の音」
箱の中に響く心地よい二胡の音色とともに観覧車から観た風景はアヴァロたちの脳裏に深く焼きついた。演奏が終わると三人は眠るかのように目蓋を閉じて静寂の空間を愉しんでいる。
――白色の箱に乗ったシルヴァとピアズ、エリッサは繁華街を見下ろしながら生前の話をしていた。
「王女とピアズは高い城からこんな感じの景色を見てたのかい?」
エリッサが言うとシルヴァはゆっくり首を振って話し始める。
「このような素敵な眺めではなかったわ……皆が魔物に怯え日々を暮らしていて、時には城門前に人が集まり何とかしろと怒鳴る声も聴こえてきました」
「そうだったのかい。悪い質問だったね……話を変えようか。どうして聖剣シルヴァラールをあの子に授けたんだい? 勇者候補は他にも沢山いただろ?」
エリッサの質問にシルヴァはこう答えた。
「アイリーンには他の者には無い特殊なスキルがある。そう思ったからです」
夕日がシルヴァの顔を照らす。ピアズはそんな彼女を真っ直ぐな瞳で見つめている。
――赤色の箱に乗ったエインとアイリーンは気まずそうに顔を逸らしながら互いに違う景色を見ていた。ゆっくりと上がっていく箱。そして沈黙。
「……綺麗だね」
エインがボソッと呟く。
「なにが?」
アイリーンが尋ねると彼は彼女を見て何かを言おうとした。しかし水を弾く犬のように首を振って黙り込んで下を向いてしまうエイン。挙動不審な彼の行動の理由をなんとなく感じ取ったアイリーンは
「……ばか」
と頬を赤くして拗ねたような顔をして言う。地獄では簡単に告白をしてきたというのに天国では言えないものなのか。だがそれはエインに感情がある証。それは彼女にとって素直に嬉しいことであった。
「えっとね、綺麗っていうのはその……」
「私がキスした事覚えてる?」
突然のアイリーンの質問に茹蛸のような顔色になるエイン。どうやら覚えていないようである。彼は動揺して火照った顔に手を当てながらアイリーンの方を見る。
「……もう一回してあげよっか?」
彼女がそう言うとエインはごくっと喉を鳴らし覚悟を決めたように返事をして目を瞑った。アイリーンが席を立つ音が聴こえる。彼はその時が来るのをじっと待った。が、しばらく経ってもアイリーンはキスをしてこない。不安になったエインはゆっくり目を開ける。
コツン
でこピンの音が箱の中に響いた。
「キスなんて百年早いわよ」
「……あははっ! 百年後が楽しみだね」
そう言うと二人は同じ景色を窓から望み互いに将来について期待を膨らましていた。
――紺色の箱に乗った魔王ディオウスとルンルン。彼の大きな角は箱の天井の一部を突き破っている。
「ルンルン。この際人妻でも良い、嫁になってくれ」
「気安く呼ぶんじゃないよ」
「……ではお付き合いから……」
「突き落とすよ」
その後魔王ディオウスが何を言っても無言を貫くルンルン。そうしているうちに全員が一周して箱から降りた。初めての観覧車体験は彼らにとって良い思い出になったようである。エインたちは日が沈む前にホテルにチェックインしてそれぞれの部屋で休むことにした。




