意外と世間は狭いもの
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
エインたちがモヤモヤした気持ちをかかえてその場を去ろうとすると彼らは貴族服を着たちょび髭の細身で神経質そうな一人のおじいさんから呼び止められたのである。両指には大きな宝石の指輪がゴロゴロ付けられており肩には虎の毛皮を羽織っていた。
「ガオー、こんにちは~♪」
見た目とは裏腹にお茶目に挨拶をしてくる貴族服のおじいさん。アイリーンは
「うっわ悪趣味~」
とつい本音を口に出してしまう。怒るものかと思いきや貴族服のおじいさんはアイリーンの聖剣シルヴァラールを見て一言
「それ欲しい~」
と年甲斐も無くこどもが駄々をこねるようにもじもじし始めた。みっともない……エインたちがそう思っていると貴族服のおじいさんはさらに距離をつめて聖剣シルヴァラールをまじまじと眺める。心底不快そうにアイリーンが振舞うと彼は
「一億万天で買い取るよ~どうかなどうかな?」
と彼女に詰め寄ってきた。ノリノリでポケットから小切手を取り出してその場でゼロを書き殴る貴族服のおじいさん。勝手に事が進んでいくことに焦りを覚えたアイリーンは「誰にも売らないわよ!」と聖剣シルヴァラールを構える。斬る気はない。ただ威嚇しただけだ。それにこの剣はエインの心を取り戻すキッカケにもなった大事な物である。そう簡単に渡してしまう事はできない。
「そもそも……何者なんですか? スラム街には似つかわしくない風采だけど……」
エインが引き気味で尋ねた。
「え~テンテンのこと知らないのー。天をも凌駕するゲキヤスフーズ社長の超絶お金持ち且つお茶目でキュートなおじちゃまとは私のこと! 覚えておきなさーい!」
言い終わったテンテンはしわくちゃな目尻を見せてウインクをした。ゲキヤスフーズという言葉に反応するエインたち。彼らの目がギラリと光る。そのオーラにじわっと汗を滲ませるテンテン。
「本物のヘヴンズソルトの製造方法を記した手帳を持ってる悪い老人はいねぇかぁー」
エインたちが声を揃えてそう言うと
「お、お前たち……もしかしてダンダバの知り合いか!? べ、別にいいじゃないの。無理矢理奪ったわけじゃないんだからー! それに高い天出して買ったんだぞ。それを今更返せなんて……」
「問答無用」
アイリーンたちはそれぞれの武器をテンテンの真直に向けて脅しにかかった。一気に血の気が引いてくるテンテン。青ざめた分余計に神経質そうに見える。さっきまでのお茶目さはどこへいってしまったのやら。しばらく沈黙が続いた。そんなテンテンたちを見てこそこそ話をしているフォカッチャーズの三人組。魔王ディオウスは相変わらずスラムのこどもたちからパンチやキックをされて微妙にダメージを受けている。
「わかった……明日私の社長室に来てくれ。ただし条件がある」
「何ですの?」
シャルロットが肉球水晶の杖でテンテンの頭をコツンと軽く叩くと「にゃー」という子猫の鳴き声が聴こえた。
「ヘヴンズソルトは一億万天で買い取ったから、それと同等の価値を持つその剣をちょーだい♪」
このような状態でも自分のペースを崩さないテンテン。エインたち……中でも特にアイリーンはイラついたように「だから無理だって言ってるでしょ!」ときつく断る。しかしなかなか折れてくれない。困り果てた彼らはとりあえずゲキヤスフーズへのアクセスとテンテンの情報が載っている名刺だけ貰ってスラム街を出ることにした。
「しつこかったねーあの社長」
エリッサがうさぎカチューシャを被りなおしながら言う。気が付けばもう夕方になっていた。オレンジ色の陽が繁華街の観覧車を目立たせる。シャロンがどうしても乗りたいというのでホテルの予約を済ませてから搭乗することにした。夕焼けに密室空間。そして美しい風景。デートスポットには最適である。三人乗りであったがみんなが冷やかしながらエインとアイリーン二人だけになるように促した。
「べ、別にどうって事もないけど……どうするエイン?」
「ふぇ? ボ、ボクも……そうしようかなぁ」
そんな彼らを見てニコニコ笑う天使たち。みんなが笑顔でそれぞれの箱へ搭乗する。なぜかルンルンと魔王ディオウスが二人きりになってしまった。初めての観覧車体験。彼らは満喫できるであろうか。




