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天国にだってスラム街はある

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

「なんとか逃げ切りやしたね」


「足が棒になったでやんす~あぁったっちゃったでやんす!!」


「うるさいよホンホン。念には念を入れるのがプロってもんさ」


 ユンユンが優雅にブロンドの髪をかきあげながら言う。その姿は一仕事終えた女優のようであった。タンタンとホンホンは「ダンダバパス」をユンユンに渡しある場所へと向かう。繁華街とは違って建物も薄暗くごちゃごちゃした空間だ。辺りにはゴミが沢山落ちておりそれを拾うこどもの姿も多く見られる。いわゆる天国のスラム街といったところか。


「あー! ユンユン姉ちゃんだぁ!」


 ユンユンの姿を見るや否や多くのこどもたちが集まってきた。彼女は中腰になってその子たちを笑顔で受け入れる。


「今日はなに持ってきたの? 見せて見せて~!」


 こどもたちの声に応えるように「ダンダバパス」を取り出すユンユン。見た事のない珍しい機械にこどもたちは眼を輝かせてそれをジッと眺めていた。彼女は「ダンダバパス」で出来る事をみんなに説明すると、わぁっ! と歓声が上がる。


「でもごめんね。これはテンテンに売ることに決めたんだ」


「え~もったいなーい!」


 ユンユンたちがそんな会話をしていた頃、そう遠くないところで二胡にこの優雅な音色が聴こえてきた。それを聴いた瞬間彼女らはその音色に引きつられるかのように音のする方へと歩いていく。こどもたちも聴いたことの無い音の方へ向かって走っていった。


「見つけたぞぉ! フォカッチャーズ!」


 アヴァロは演奏を続けている。彼女らが逃げないためだ。


「くそぅ! なんでやんすかこれぇもっと聴きたいでやんす! でも逃げたいでやんす!」


 ホンホンが混乱したように言う。これはアヴァロの特殊スキル「き寄せ」によるものであった。その効果は文字通り演奏を聴いた者の心を魅了し物理的にその者を自分たちの方へ引き寄せるというものである。多くのこどもたちがエインたちを取り囲んだ。


「ねぇそこの大きいおじちゃん! メリーゴーランドして~!!」


 沢山のこどもたちがマカロの腕にしがみつく。


「メリーゴーランド?」


 マカロがこどもたちから説明を聞いてその通りにするとこどもたちは「きゃー!!」という甲高い声を出して大笑いしていた。その姿は実に微笑ましい。しかし彼らはそのような事をしに来た訳ではない。こどもたちはマカロに任せてエインたちは「フォカッチャーズ」をシルヴァの技で拘束して「ダンダバパス」を返すように言う。


だね。一度手に入れた物は手放したくない性分しょうぶんなの」


「そうでやす。金持ちはまた資産を作って出直して来いでやす」


 ユンユンとタンタンが悪態をつくのでしびれを切らしたアイリーンが彼らの脇ををこちょこちょと交互にこそばす。三人は涙が溢れるほど笑いながらそれでも抵抗し続けていた。なんだか面白くなってきたのかアイリーンのこそばす速度は段々上がってくる。それを見てエインたちは


(うわぁ……)


 と心の中で思った。


「ほ~ら、早く渡さないと笑い死んじゃうわよー♪」


「ひぃっひっひっ! この街のっためにも、それだけはぁ嫌でやんすぅう~!」


 ホンホンが笑いながら必死に首を振って言う。彼の言う街とはこのスラム街のことであろうか。ピアズが尋ねると三人は「このままでは話せないから止めてくれ」というような事を言ってきたのでエリッサがアイリーンを彼らから引きはがした。


「いいところだったのに~」


 アイリーンが口を尖らせて言う。


「あの……話していただけませんか? あなた方が窃盗などを繰り返していらっしゃる理由を」


 シャルロットが拘束されたままの三人に近づき尋ねた。


「……へぇ。金持ちってのはこの街を見てもそんな呑気なこと言えるんだね」


 ユンユンが目を伏せて話し始める。彼女らが窃盗をし続ける理由とはスラム街に住むこどもたちを豊かにしたいからであった。確かにお腹が減っていても天使ひとは生きられる。病気もなければ死もない。だがそれだけが天使ひととして存在する価値になりうるか。というものであった。


「私だって永遠に続く天生てんせいを楽しく生きたいのさ」


「まとものように聴こえるが同情は出来んな」


 ぺディシオンが腕を組んで言う。その後ろではマカロやシャロン、コーリンがスラムのこどもたちと楽しそうに遊んでいた。


「……心苦しくはありますが、ダンダバパスは返してもらいます」


 ピアズが強く握り締められたユンユンの手を優しくほどいて「ダンダバパス」を取り返す。一定の距離を置いたあとアヴァロは演奏を止めてシルヴァも拘束を解いた。本当ならそのまま帰るところなのだが元々勇者気質なエインとピアズはこのスラム街を見て何とかしてあげたいという気持ちになったのである。彼らの気持ちが揺れ動いている間、魔王ディオウスはこどもたちに


「わー! 怪獣ミカヅッキーだー!!」


 とあだ名まで付けられて足蹴りされていた。

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