映画館でドキドキ
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
お気に入りの二胡を手に入れたアヴァロはどこか嬉しそうである。そんな彼に親しみを覚えたエインたち。魔王ディオウスは未だに二胡の音色のどこが良いのか分からないでいた。そんな中、彼らはひときわ大きい劇場のような建物を発見する。看板には
『天流映画 ―月明かりの告白―』
と書かれていた。どうやらここは天国の映画館のようである。エインたちは見たことのない宣伝ポスターやポップコーン等が出来る瞬間に驚きつつ促されるままに映画館の中へと入っていった。
「あ、お客サン! 上映まであと7分! 観るなら今だヨ!」
エインが「ダンダバパス」を見せるとオマケで全員分のオレンジジュースが付いてくる。エインとアイリーンは隣同士の席になった。しばらく会話をしていたら突然暗転して注意事項と映画予告が始まる。そして本編が始まった。内容は恋人である女性が白血病で衰弱していきながらも永遠の愛を誓い合うというものである。が、そのシーンの中に二人をドキドキさせる要素が沢山あった。
この映画の主人公の男性と女性は幼馴染で昔からか弱い彼女がいじめられているのをいつも助けてくれるといった関係であったが、恋に目覚めたのは手を繋いだ瞬間からである。重なり合う目に潤んだ女性の瞳。そして二人の唇は次第に距離が近くなり……
バッシャーン!!
魔王ディオウスが緊張のシーンで盛大にオレンジジュースを落としてしまった。ジトッとした視線が彼に注がれる。そんなこんなで映画は終わってしまった。魔王ディオウスは邪魔になるのもわからないで席から立ち上がりへこへこと頭を下げる。スクリーンに映る彼の影。ゆっくり流れているスタッフロール。
「……なんか、恥ずかしかったなぁ」
そんな事などお構い無しにエインが頭に手をやりながらアイリーンに話しかけた。彼女も気まずそうに
「天国の天使ってこういうのが好きなのね。私には理解できないわ」
と言ってそっとエインの手を握る。暗闇の中だからこそ出来ること。きっと二人は今までに無いほど赤面に違いない。そして次第に顔が近くなっていくが照明がついて動揺したアイリーンはエインの頬を引っ叩いて真っ先にその場をあとにした。
「出口で待ってるから!」
「待ってよぅ~アイリーン!」
ヒリヒリ痛む頬を押さえながらエインはアイリーンを追いかける。その様子を見ながら
「恋心ってわかんない」
と声を揃えて言うシャロンとコーリン。彼らは声が被ったことで互いに睨み合っていた。一方、オレンジジュースを零した魔王ディオウスは観客からポップコーンや罵声を浴びせられながら床を拭いている。誰も彼と関わろうとしない。魔王ディオウスはじんわり涙を浮かべて
「我、元魔王ぞ……なぜこのような扱いを受けねばならんのだ……」
そうブツブツ呟きながら映画館から出て行く楽しそうなエインたちの姿を恨めしそうに眺めていた。次に彼らはどこへ行くのであろうか。まだまだ遊ぶ場所は沢山ある。エインたちは「ダンダバパス」を盛大に使ってあっちこっち行ったり来たりしていた。そんな彼らに目をつける男二人と女一人がいることも知らずに……




