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アヴァロの音楽理論

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

 エインたちは屋台で売っていた桃慢ももまん小籠包しょうろんぽうなどの飲茶を食べ歩きしながらあちらこちらの店で買い物をしている。贅沢三昧もいいところだ。しかしエインたちはあることに気付く。


「アヴァロはどこだ?」


 ピアズが辺りを見回しながらそう言うとエリッサがある店を指差して


「ずっとあそこで楽器を見てるよ」


 と言った。アヴァロは一人真剣な顔つきで高そうな楽器たちをショーケース越しに眺めている。欲しいならそう言えばいいのに……とみんなは思ったがそういうところが彼らしくもあると思い、レトロな雰囲気のある楽器屋の方へ歩み寄っていった。


「欲しいなら買っちゃいなよアヴァロ!」


 コーリンが笑顔でアヴァロに語りかけると彼はより一層真剣な目でコーリンを見つめ熱く語り始める。


「楽器はただ買えば良いという物ではない。楽器職人の熟練した技術、そして奏者の実力や楽器との相性等が合致してこそ真に素晴らしい演奏が成し得るのであって、ショーケースに眠っている楽器を見ただけでは買うのが引ける」


「……つまり、中に入りたいって事だね……」


 額に汗を浮かべて笑うコーリン。普段寡黙なアヴァロがここまで楽器に熱くなることを知らないエインたちはまるで別人のような彼を見て目を丸くしていた。とりあえずドアを開けて中へ入ってみる。同時にシャララシャララという聴き心地の良い音が店内に鳴り響いた。アンティークな雰囲気の中に頑固そうなおじいさんが一人ピアノの調律をしているのが見える。


「我にはどれもこれも同じに見える。だいたい音楽のどこが良いのだ、好き勝手に演奏をして自己満足しているだけであろう」


 「それは音楽に嗜みの無い無教養な愚か者の言葉だ。僅かな音の違いの重なりが新たな音を生み出し聴く者の耳を肥えらせる。そして豊かな心を育んだ者は人と人とを繋ぐ事が出来る力を持つ。音楽は教養であると同時に心のセラピーにもなっている。また、音楽とは……」


 アヴァロの音楽理論が止まらない。


(余計なことを言って……)


 みんなの視線が痛い魔王ディオウス。そんな時、ピアノの調律をしていたおじいさんがアヴァロの話を聴いていたのか彼のもとへゆっくり歩いてきて


「音楽家は音楽で語るものじゃ。楽器の音色が空気に溶けるように想いは必ず伝わる。だが奏者が居なければどんな良質な楽器でもただの玩具おもちゃでしかない。お主に相性のよさそうな楽器があるが観てみるか?」


 と言った。今日のアヴァロはよく喋る。おじいさんと意気投合した彼は朱色の小さな二胡にこを勧められた。アヴァロは即興で演奏をしてみる。その音色は高貴な婦人の歌声のようであった。


「気に入った。エイン、ダンダバパスを」


「お代はいらんよ。音楽を真から愛するもんから金は取れん。その代わり大事に使ってやってくれ」


 おじいさんはそう言うと再びピアノの調律をしに戻る。そのお礼にアヴァロは手に入れたての二胡である歌を詠った。


「此処に音楽の女神が舞い降り 全ての楽器に加護がある事を願う」


 楽器たちが黄金に輝きアヴァロの歌声に応えるかのように演奏を始める。それを心地よさそうに聴いているおじいさん。演奏が終わるとエインたちは店から出て再び賑やかな繁華街へと戻った。

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