色違いの金魚
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
エインたちが寮に帰ってきたことを知ったおばちゃんたちはみな喜んでいる。シュンシュン一人を除いては。リンリンとランランはルンルンの元に駆け寄ってそれぞれ言葉を掛け合った。
「お母さん、ただいま。ランラン、元気にしてた?」
ルンルンがそう言うと二人は涙を浮かべる。感動の再会の途中であったがダンダバ社長はその場に居るみんなに事の全てを話した。視線がシュンシュンに集まる。開き直ったのか彼女は大笑いして手を叩きながら
「あぁそうさ、私がやったのさ! 気に喰わなかったんだよ! お前も……こんな所での生活もね!!」
と言った。その時である。自身が産業スパイである事とその胸中をランランたちが吐露したのだ。彼女らの目的は本物のヘヴンズソルトの製造方法を記した手帳をヘヴンズフーズへと返すことだったのである。しかしゲキヤスフーズの金庫は厳重に管理されており誰も入れなかった。困り果てていたランランたちは強く願ったのである。
(ヘヴンズフーズに新しい作業員が来て助けてくれたらなぁ……)
と。
「それがたまたま私たちだったってわけ!?」
「はい。多分」
裏返った声で尋ねるアイリーンにランランはこくっと頷いた。苦笑いするエインたち。だがこれも何かの縁だと考えると前向きにもなれる。いろいろな死に方があったが今こうして仲間達と会話できているのはランランたちの願いのおかげであるのだから。
「本物のヘヴンズソルトの製造方法の手帳はゲキヤスフーズ側にあるんだね」
「はい。向こうの冷凍コロッケ製造所の社長室にあります」
「……ルンルンの娘の言葉だ。信じよう」
ダンダバ社長はスーツのポケットから掌サイズの丸いキャンディのような赤い機械を取り出すとそれをエインに渡した。みんなが不思議そうにそれを見つめている。機械には小さく
〔ダンダバパス〕
そう書かれていた。
「作業員不足は解消されたし願い事を聞いてくれる代わりにそれで好きに遊びなよ。勿論ルンルンもね」
「当たり前よ! 破綻するまで色々買いまくってやるんだから!!」
それを聞いて少し不安そうにサングラスを下げるダンダバ社長。
「それで、私の処分はどうなるんだい。地獄逝きかい?」
シュンシュンがわざと和やかな空気を壊すように尋ねる。クスクス笑っていたおばちゃんたちは黙り込んでしまった。そんな空気を愉快そうに大きな笑い声でかき消そうとするシュンシュン。
「……本当にあんたがやったのかい? 本当の事を言っておくれよ」
「ふん、金魚のフンのくせにどんどん生意気になってって。気がつけば私のポジションまで奪った挙句小うるさい馬鹿娘まで授かって……あんたなんか構わなきゃよかったよ」
リンリンはシュンシュンの本音を聞いて脱力する。
「じゃあ地獄逝き決定……」
「待ってください!」
ダンダバ社長が命令を下そうとするとリンリンがそれを止めた。例え金魚のフンだと言われようとも彼女にとってはシュンシュンは大切な仕事仲間であり親友なのである。その旨を聞いてシュンシュンは馬鹿笑いを止めて真剣な顔つきになった。
「あんた。私が恨めしくないのかい?」
「食堂でみんなで食べるご飯の美味しさを教えてくれたのはあんただから……娘の事は許せない。けど、こうして帰ってきた今、あんたを責める理由なんてなくなっちまったよ。これからは金魚のフンじゃなくて色違いの金魚になろうよ。ムードメーカーのシュンシュンと口喧しいお局リンリンってね」
「……」
二人のやり取りを見ていたおばちゃんたちはみんな拍手で彼女らを祝福する。するとおばちゃんたちの天使の輪っかが白銀に輝いた。その場がフラッシュのように輝く。エインたちはその眩しさに目を閉じた。
「まぁ本物のヘヴンズソルトの製造方法の手帳はエインたちが持って帰って来てくれるから今回は地獄逝きは無しとしよう。その代わりしっかり働いてもらうからね」
「……はい。申し訳ありません」
ダンダバ社長の言葉に深々と頭を下げるシュンシュン。
(まだ持って帰ってくるって約束してないんですけど!)
目を開けたエインたちが彼らを見て心の中でそうツッコむ。だがリンリンファミリーが再会できたことは素直に祝福したい。
「じゃあさ、早速遊びに行こうよ!」
ルンルンがエインの右腕を引っ張って強引に寮から外へ出そうとするのをアイリーンが左腕を引っ張って制止した。綱引きのようになってエインは「痛いぃやめてー」と泣き叫んでいる。その様子を見てみんながケラケラ笑った。
「ほら、ここは私たちに任せてあんたたちは天国見学にでも行きな」
「土産話期待してるからね!」
リンリンとシュンシュンが言うとランランやおばちゃんたちはそれぞれの部屋の中へと入っていく。作業着に着替えるためだ。ダンダバ社長もキャンディのような光沢のある高級車で社長室へ向かう。
「さぁエイン、行きましょ!」
アイリーンがエインの腕を放して先頭を走った。
「あ、待ってよぅ~!」
ルンルンが手を離したと同時に駆け出すエイン。そんな彼らを見てみんなは溜息をつきながら走りだす。しかし誰一人嫌そうな顔はしていなかった。




