アイリーンの選択
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
「ミニマル」の魔法を解くシャルロット。ルンルンとエイン以外がみんなぜいぜいと荒い息をついている。アイリーンはエインに近づいて聖剣シルヴァラールを構えた。心臓がバクバクするかのようにそれは淡く時に濃く輝く。
「ボク、アイリーンのことが好きだよ」
光の無い目で微笑むエイン。その言葉を聞いてアイリーンの持つ聖剣シルヴァラールはより一層満開の桜のように色づいた。彼女の頬もりんごのように赤く火照る。
「こんな形で告白なんて酷ですわね……」
シャルロットが悲しげにそう言うとアイリーンはエインの手を握って虚ろな彼の目を見つめた。みんなはその光景を固唾を呑んで眺めている。アイリーンはエインを斬るのか斬らないのか。彼女たちの愛は本物であるのは確かだ。以前のように戻って欲しい。みんながそう願うも問題は彼を最も愛するアイリーンがエインを傷つけなくてはならないということである。
「エイン。こんな選択しか出来なくて、ごめん」
次の瞬間、アイリーンは聖剣シルヴァラールを地面に突き刺して泣きながらエインの右頬に軽くキスをした。それと同時に聖剣シルヴァラールは赤い薔薇のように色づく。
「エインの目が……!」
シャロンが驚いたように言った。エインの瞳に再び光が宿ったのである。
「エイン……!」
アイリーンが目の前の彼を抱きしめた。それはもう全力で。
「く、苦しいぃ……」
一連のやり取りを見ていたルンルンは驚いたように二人を見やる。どうしてエインを傷つけずに正気に戻せたのであろうか。それが彼女には分からなかった。実はこのときアイリーンの特殊スキル「浄化」が開花したのであるが今はそんな事はどうでもいい。あとはどうやって地獄から天国へ戻るかである。エインたちはルンルンに自己紹介をした後天国への戻り方を彼女に尋ねた。
「ヘルグループ本社のワンワンって奴に直接会って私がヘヴンズソルトについて全てを話すよ。冤罪だからね。きっとあんたたちも天国で休日の許可が下りるよ」
「休日?」
エインが首を傾げて言うとルンルンは面倒くさそうに
「冷凍コロッケ製造所から離れて天国中で遊べるってことさ。ダンダバ社長の奢りでね」
と腕を組んでいう。
「で。本社はどこにあるのよ?」
アイリーンがそう尋ねたとき、ドシンドシンと大きな足音がしてきた。今までの魔物よりもはるかに大きい。しかし魔王ディオウスは赤い霧の中見えてきたシルエットに向かって歩き出す。それに警戒したみんなはそれぞれ武器を構えた。
「……ミッションは遂行したようだな。ご苦労」
「は。このディオウス、赤髪の花嫁の感情を取り戻しました」
「誰が花嫁だぶっ殺すぞ!」
ワンワン社長の前で魔王ディオウスの尻にキックを入れるルンルン。状況がつかめないみんなにワンワン社長が一連の説明をする。まず現在ヘヴンズフーズで使われているヘヴンズソルトは本物ではない事。次にその製造方法をゲキヤスフーズに洩らした者が他にいること。最後にその人物はルンルンでなかったことであった。それに気付いたダンダバ社長とワンワン社長はエインたちを地獄に逝かせて調査してもらいたかったのだという。そしてモニターで彼らの会話を聞いていたことも告げた。
「そうならそう言いなさいよ! 面倒くさい奴ね!!」
「すまなかった。しかし後先考えずに地獄に乗り込んだのはオマエだろう?」
ワンワン社長の言葉にアイリーンはエインの方を見ながら悔しそうに下唇を噛んで黙り込む。ワンワン社長は懐から横笛を取り出すと
「天国へ帰してやる。文句はダンダバに言え」
そう言って演奏を始めた。どこか不気味で耳に残る音である。エインたちが目と耳を塞いでその音から「離れたい」と強く思った。目を開けると彼らは黒いオーラを纏った魔方陣の側に立っている。地面には割れた手鏡が落ちていた。ルンルンはすぐさまそれを拾って直してもらえないかと尋ねてくる。
「私の特殊スキル「術式修繕」を使いましょう」
シャルロットの魔法の力で割れた手鏡は虹色に輝く不思議な鏡となった。そこに映し出されたのはリンリンの姿である。
「お母さん!」
ルンルンが嬉しそうに目に涙を浮かべた。鏡の中のリンリンは少し若く見える。エインたちが鏡を覗き込むと彼女は穏やかな顔で話し始めた。




