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愛するものをこの手で……?

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

「オ、オカー。どうしてしまったのだ」


「私はルンルン、()()()さんはリンリンっていうお人好しだよ」


 魔王ディオウの問いに「オカー」はそう答える。それを聞いてみんなは目を丸くした。天国の冷凍コロッケ製造所にいるあのメデューサのような瞳をしたお局のリンリンと、ルンルンという女が親子だということに驚いているのである。


「私の罪は本物のヘヴンズソルトの製造方法を無許可で外部にらした事……なんだけどね、冤罪もいいとこ! 本当はシュンシュンの奴がお母さんを騙して本物のヘヴンズソルトの製造方法を記した天国に一冊しかない大事な手帳をゲキヤスフーズの産業スパイの奴らに渡したんだ!! ……お母さんってば気が弱くて優しい人だから友達の多いシュンシュンに話しかけられて嬉しかったのよ」


 ルンルンの言葉にみんなが耳を疑った。強気で作業員のおばちゃんみんなから信頼されているあのリンリン姐さんが……と呟きながら顔を見合わせる。そんな事などお構いなしにルンルンは話し続けた。


「心亡き者にられし者は、心在る者に斬られて蘇らるる」


「いきなり何よ。なにかの呪文?」


 アイリーンがルンルンに問うと、アヴァロの懐にあった魔昌球体エインボールが白銀に輝く。彼がそれを取り出すとアイリーンの聖剣シルヴァラールが反応するように濃いピンク色に滲むように輝いた。次の瞬間、「ミニマル」の魔法が無効化され等身大のエインが地べたにぼーっと座っている。彼の天使の輪っかには若干のヒビが入っていた。


「天使が心を保つためにはその輪が欠けてちゃ駄目なんだ。あんたたちの友達もヘルグループの奴にられてたんだね……一番感情に富んでるそこの子。あんたがその剣で元に戻してやりな」


「……もしかして私にエインを斬れって言ってんの?」


 ルンルンの説明を聞いてから聖剣シルヴァラールを握る手が震えるアイリーン。それは「怒り」や「悲しみ」ではなく「ためらいの心」から来る物である。


「なにをグズグズしてるんだよ。早くしないと仕置き人がやってくるじゃないか!」


「……私できない……」


 一連のやり取りを無言で見つめる仲間たち。そんな時に限ってアクシデントは起こるものであった。エイン担当の仕置き人キャンキャンがさらに大きくなって登場したのである。キャンキャンを見たことが無いピアズたちはその歪な姿に驚いていた。戦うか逃げるか。選択肢は二つしかない。


「シャーロ君のお姉さん、「ミニマル」でエインとルンルンさんを魔昌球体ましょうきゅうたいの中へ入れてあげて!」


魔昌球体ましょうきゅうたいは私が責任を持って預かります」


 コーリンとピアズが言う。みんなはそれを聞いて走り出した。「退却」することを選んだのである。しかしアイリーンは聖剣シルヴァラールをゆっくりズンズンと歩いてくるキャンキャンへと向けていた。


「何をしているのですか! 早くお逃げなさい!!」


 シルヴァが制止するもアイリーンは恐ろしい形相で迫り来るキャンキャンを睨んでいる。


「返せ……エインの心を返せーー!!」


 完全に追いつかれた。魔昌球体ましょうきゅうたいに封じ込めたルンルンはその様子を見てイラついたように頭に手をやる。アイリーンは完全に怒りに狂っていた。しかし彼女の特殊スキル「急所狙い」を使っても今のアイリーンにキャンキャンは倒せない。弾かれる聖剣シルヴァラール。無防備になった彼女の元にキャンキャンの大きな爪が忍び寄る。その時であった。エリッサが特殊スキル「お色気ダンス」を発動させたのである。


魔物モンスターでもダンスっていう芸術ぐらいは分かるだろ~?」


 揺れるところは全て揺らして激しく踊るエリッサ。それを見て噴水のように鼻血を出すキャンキャンとマカロ。その隙を突いてシルヴァが例の技でキャンキャンを拘束した。


「く、くそ~! 放せぇえ!」


「アイリーン。ここは退きましょう。ルンルンさんとはもう少しお話ししたいですし」


 シルヴァはそう言うと、相手を眠らせる麻酔の針を人形に忍ばせそれをキャンキャンに向けて放つ。キャンキャンは痙攣を起こして眠るように動かなくなった。逃げるなら今しかない。彼らはアイリーンの腕を引っ張りながら安全圏へと逃げ出す。そうしてなんとか事なきを得た。あとはエインの「恐怖」の心が復活する事と地獄ここからどうやって天国へと帰るかである。一番の問題はアイリーンがエインを斬ることが出来るかどうかであった。聖剣シルヴァラールの輝きが不安定で落ち着きが無いのは彼女の心とリンクしているからであろうか。

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