目覚めた赤髪の天使
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
安全圏を離れたエインたちは相変わらずヘルグループの仕置き人たちに追われているところである。アイリーンが追いつかれそうになると彼女は手に握っていた「ミニマル」の魔法で出来た魔晶球体を足の素早いぺディシオンに投げ渡した。
「頼んだわよ!」
「ガハハハ! とんだ大役を任されたものだ! 良いだろう! 光射した方へと貴様ら全員導いてやろう! 付いて来るがいい!!」
丸い物を見るとつい厨二台詞になってしまうぺディシオン。意味も無く騒ぐので彼の体力はみるみるうちに無くなっていく。どんどん走るスピードが遅くなっていくので今度はぺディシオンが魔物に追いつかれそうになった。
「ぺディシオン、俺に任せろ!」
大きな身体のマカロが先頭に立って腕を大きく上げる。息切れをしながら
「ふ……後は任せたぞ」
と大汗をかきながら捨て台詞を吐き魔晶球体をマカロの方へ向かって放り投げるぺディシオン。しかしここで不器用なマカロがやらかしてしまう。ぺディシオンが投げた魔晶球体を受け取り損ねたのであった。それはマカロの大きな手に弾かれて仕置き人の方へと向かって勢いよく飛んでいく。
「あぁーーーー!!」
みんながそう叫んだ。一体の魔物が魔晶球体を手に取りそれを上下左右に振って中にいるエインを覗き込む。
「やや、中に小さな天使がいるぞ。しかも目を回している。何だこれは?」
仕置き人たちが魔晶球体に目を取られている隙にシルヴァが「スパイダードール」で彼らの動きを封じた。仕置き人が手にしていた魔晶球体がその反動で地面へ転がり落ちる。それはアヴァロの足元にコロコロと転がっていった。彼は懐の中に魔晶球体をしまい込むと例の歌を詠って仕置き人たちを眠らせる。
「も~君たち一行は問題児ばっかー、それでよく魔王退治に行こうなんて思えたねー」
コーリンが珍しくみんなの前で嫌味を言った。気まずそうに笑う負け組み勇者一行。といってもエインは球体の中で転がされて酔ったのか青い顔をしていたが……
「――おや、アンタの剣。光ってないかい?」
エリッサがアイリーンの聖剣シルヴァラールを指差して言う。それは確かに淡いピンク色に輝いていた。アイリーンたちが不思議そうにそれを眺めていると、赤い霧の奥からなにやら聞き覚えのある声と女の声がしてくる。それは魔王ディオウスと「オカー」の二人であった。
「……赤髪の女性!」
ピアズたちが「オカー」に詰め寄って名前や犯した罪などを聴いてみる。しかし彼女は
「シュンシュンが憎い……」
の一点張りで全く話が通じていない状態であった。無視されていることに空しさを覚えた魔王ディオウスはいじけたように地面にのの字を書いている。
「冗談はさておき、ディオウス。なんでこの女の人と一緒に居るの?」
「よからぬ事を企んではいないだろうな」
アイリーンとピアズに問い詰められて慌てて立ち上がり首を振る魔王ディオウス。
「ち、違う! 我はある任務を遂行するためにここまで来たのだ。貴様らの持っている天使の輪をオカーに渡せ」
「オカー?」
アイリーンが聖剣シルヴァラールを構えて首を傾げた。彼女は攻撃する気満々である。それを静止するように「オカー」が両手で聖剣シルヴァラールを握った。もちろん大量の血が出ている。
「な、なにしてんのよあんた!」
淡いピンク色に輝いた聖剣シルヴァラールがよりいっそう濃い色に染まった。
「わわわっ! 天使の輪が!」
コーリンが慌てた様子で自分の手元から離れて「オカー」の元へと勢いよく飛んでいく天使の輪っかを見つめる。それは「オカー」の頭上にピタッとはまると彼女の目に光が宿った。
「これでミッションは成功したぞ!」
興奮したように「オカー」の背中に手を回す魔王ディオウスであったが……
「ふんっ!」
今まで静かだった「オカー」の強烈アッパーが彼の顎にクリティカルヒットする。よろめく魔王ディオウスが再び目を開けると
「さっきからうっせぇなぁ~こちとら早く汚名返上したいんだわ。面倒くさいから手短に話すな」
ポリポリ頭をかきながら気だるそうに話し始める「オカー」がいた。彼女は一体何者なのか。そして「恐怖」の感情を無くしたままのエインはどうなってしまうのであろうか……




