てんやわんやでございます!
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
一方エインたちは――
「まてや天使どもーー!」
「撤退っ、撤退ーー!!」
わらわら湧いてくるヘルグループの社員たちに追われている最中である。そんな中エイン一人だけ呑気にマカロのゴツゴツした背中の上でコアラのように丸まって爆睡していた。
「なに気持ちよさそうに眠ってるのよー! 起きなさーい!!」
アイリーンがそう言うとエインは「んー……」と受け答えをするかのように寝言で返す。それにカチンときた彼女は走りながら軽く平手でエインの背中を叩いた。本当ならば頬を引っ叩きたかったが大きなマカロとの身長差でこういう形になってしまったのである。目を開けて彼女を見下ろすと第一声に彼は
「……可愛いね、アイリーン」
と唐突に言った。その言葉に顔を真っ赤にしながら
「ばっかじゃないの。状況を考えて話しなさいよ!」
と照れくさそうに叱るアイリーン。果ても無い地獄の中をみんなとヘルグループの社員から逃げつつ一緒に走り回っていたのである。先に息が切れてきたのは負け組み勇者一行であった。特に弓使いで後衛担当のシャロンやその姉である魔法使いのシャルロットが疲れが溜まったのか、走るスピードが段々遅くなっていく。
「お前たち、特殊スキル「忍耐」はどうした。開花していないのか?」
ピアズがシャロンやシャルロットたちに問いかけた。
「開花するにはっ、レベルが、足りなかったんだっ!」
「……もう駄目ですわ……」
走るのを止めてしまったシャロンとシャルロット。仕置き人との距離はそう遠くない。ザット数えて15体以上はいるであろう仕置き人の数にみんなは覚悟を決める。
「戦いましょう」
シルヴァがそう言うと最強勇者一行は陣形を組んで戦う姿勢に入った。その時である。
「降ろして。ボクも戦うよ」
虚ろな目をしながらマカロの背中から滑り落ちるように地面に着地するエイン。普段の彼なら真っ先に逃げるはずであろうに、なぜ……といった疑問がみんなの中で起こった。
「無理しなくていい。休んでろ」
ぺディシオンがそう言ってもアイリーンの前に立とうとするエイン。双剣を持つ両手に震えは無い。今の彼らに出来ることはアイリーンとエインをなるべく魔物から遠ざけること。それを分かっていたアイリーンは前線から退く。
「アンタたちの攻撃じゃここの魔物は倒せないから足止めをしておくれよ。あ、そうだマカロ。アンタ地面を抉って道を崩す事は出来るかい?」
「は……はいできます!」
エリッサからそう言われたマカロはみんなの先頭に立って自慢の腕力と脚力で地面を抉り仕置き人が動きにくい足場を作ることに成功した。ここから戦闘開始である。空からくる魔物はシャロンの弓とシャルロットの中級魔法で。足場の悪い場所での地上戦はぺディシオンの爪と牙で。テリトリーに入ってしまった魔物はマカロがぶっ飛ばした。その間に詠唱を終えたコーリンが魔物を一箇所に集める大妖精「シルフィーネ」を呼び出す。コーリンの持つ本の中から長い緑の髪をした神々しい妖精が魔物たちを囲むと風の輪を作って仕置き人を全匹拘束した。
「ははははは! 俺達は殺しても強くなるだけで死なんぞ!」
余裕の顔で命乞いをすることも無く笑いこける仕置き人たち。しかしアヴァロの歌を聴いた瞬間みなが眠りこける。みんなの中で勝利のファンファーレが鳴ったのも束の間。今度は一体のボスらしい風格を纏った魔物が現われたのであった。右手には釘バッドが握られている。
「俺はダウダウ。ここでのルールを叩き込んでやる。さぁ来い」
見たところダウダウに耳は無い。アヴァロの歌は効かないだろう。戦って勝つしかない。たとえ相手が強くなると分かっていても……
「ファイアボール!」
「ぐあぁあああ!!」
シャルロットが速攻魔法を放ったところ、ダウダウは即死した。
(よっわ!)
全員がそう思ったが、地獄の魔物は倒せば倒すほど強くなる。それに眠らせることが出来ないとなれば少々厄介な相手になりそうだ。
「……ねぇみんな。これなんだろ?」
コーリンがダウダウの懐にある割れた黄金の輪を見つける。それは紛れもなく天使の頭上についている天使の輪っかであった。
「さぁ勝負だ! 俺は強くなったぞ!!」
「うわっ、もう起きた!」
コーリンが割れた天使の輪っかを服の中に隠して再び戦闘体制にはいる。
「もう、一体何なのよ!!」
苛立ちを募らせるアイリーン。彼女は戦闘に出られない屈辱感とエインが感情を失ってしまうきっかけを作ったことに後悔の気持ちを抱いていた。
「田舎者勇者、猪娘! もう少し下がれ! ダウダウのレベルが倒す毎にどんどん上がっていく。次に倒れたら全速力で逃げるぞ!!」
「……田舎者なんかじゃぁないぞ」
「妙なとこに反応しなくていいの! 早く逃げるわよエイン!」
ピアズの呼びかけでみんなが逃げる体制に入る。もう一度マカロの背に負ぶさるエイン。作戦は上手くいったのか、全員逸れることなくダウダウから逃げ切る事が出来た。




