逝ってきま~す!
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
みんながロッカールームに集まる。そこには無理矢理自分のロッカーをこじ開けようとするアイリーンの姿があった。
「あんた、本当に逝く気なのかい」
リンリンが散々地獄の苦しみを説明するが彼女は頑なに意思を曲げようとしない。感情も自分のモノだから自分自身でどうにかできるという持論を展開している。ダンダバ社長はそんなアイリーンを見てサングラスをあげながらピューっと口笛を鳴らした。
「アイリーンが逝くならボクも地獄へ逝くよ! みんなも来てくれるよね?」
エインの言葉に一瞬固まる負け組み勇者パーティ。最強勇者一行は呆然とした顔で彼の方を見る。彼らは頼りなさそうに放たれたエインの言葉を信用できなかった。なにせエインは仲間を一度裏切って天国へと転生したのだから。
「……普通はアイリーンが地獄へ逝くのを止めないか?」
マカロが大きな腕を組んで冷静に言う。しかしエインは
「アイリーンが言い出すと止まらない性格なのは知ってるから。それにディオウス。元はといえばお前の姑息な計画の所為でこうなったんだぞ! もちろん責任取ってくれるよね!」
と眉間にしわを寄せて言う。その形相は必死だ。エインは心底地獄というものが怖かったのである。相手がかつての宿敵魔王ディオウスであってもできるだけ仲間を増やしておきたいと考えていたのだ。
「わ、我は無関係だ! 貴様らの問題は貴様らで何とかするがいい」
一連の様子を見ていたダンダバ社長は面倒くさそうに、
「はーいじゃあ全員地獄送り決定。拒否権なし」
とミルクせんべいを齧りながら言った。一瞬の静けさがロッカールームを支配する。そのあと――
「えーーーー!?」
というみんなの声がロッカールーム全体に大きく響いた。
「えっと……エイン、アイリーン、シャルロット、シャロン、マカロ、ぺディシオン、ピアズ、シルヴァ、コーリン、エリッサ、アヴァロ、ディオウス……ふふ、諸君の活躍をモニターで楽しむことにするよ。さぁロッカーを開けるからさっさと装備を整えて地獄の入り口へ行こう」
指についたミルクせんべいの甘い液体を舌で舐めながらダンダバ社長がダンッ! と足を踏み鳴らす。すると全員分のロッカーが開き、長くしまわれていた装備品が顔を出した。
(……逝くしかないか。地獄)
みんなが脱力しているなかアイリーンだけは聖剣シルヴァラールとの対面に嬉しそうな顔をしている。腹をくくったのかエインも若干泣きそうな顔をして装備品を身につけた。仕方ない……そう思いながら名指しされたみんなが生前の装備をする。
「なぜ我が……こんなはずでは」
ブツブツ言いながらダンダバ社長が案内する地獄の入り口までエインたちと付いていく魔王ディオウス。そこは冷凍コロッケ製造所から遠く離れた薄暗い空間であった。明らかに天国の雰囲気とはかけ離れている。移動の際に使ったトラックから降りてしばらく歩くと禍々しい魔方陣がどす黒いオーラを纏っているのを見つけた。
「ほら、魔方陣に足を踏み入れるんだよ」
「死なない?」
「無限の死を味わいに逝くんじゃないか」
エインの質問にダンダバ社長は冷酷に答える。怯えるエインと対照的にアイリーンはさっさと魔方陣のほうへ向かい、
「逝ってきま~す♪」
とにこやかに聖剣シルヴァラールを掲げて黒いオーラに飲み込まれていった。
「あ、待ってアイリーン!!」
その後を何も考えずに半ば衝動的に駆け足で追いかけるエイン。みんなも遅れて魔方陣の中へ入っていく。静けさのなか、ダンダバ社長がキャンディの包み紙をめくるガサガサという音だけが響いた。
「なんとなくだけど君たちが選ばれたのが分かった気がするよ。君たちの心の力があれば地獄から帰ってこれるだろう……」
そう言うと、ダンダバ社長はその場をあとにする。たった一つ、割れた手鏡だけを置いて――




