地獄送り宣言
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
エインたちはみな作業準備に取り掛かる。ダンダバ社長がまず伺察したのは芽取り作業中のぺディシオンたちであった。金柑のど飴のカラカラという音が気になったのかダンダバ社長は、ぺディシオンにその理由を聞く。すると彼は丸いミルクボーロをぺディシオンの目の前に見せ付けた。意地悪そうな顔をしながら。
「我が宿命はこの物体の芯の蔵を抉る事! 魅せてやろう我が奥義! 刹那爪抉!!」
ぺディシオンの言葉にダンダバ社長は腹を抱えて笑う。心底楽しそうだ。
「まぁその様子じゃ仕事にならないから飴は許してあげるよ。次はあのガキたちだ」
シャロンとコーリンの元へと移動するダンダバ社長。愛想のいい二人はアイリーンやシルヴァと違って表向きは仲良く見える。にこやかにおばちゃんたちと作業をしているシャロンとコーリンには何の興味も示さずただ後ろに手を組んで、その場を去っていった。
「楽しいねーシャーロ君♪」
「やだなぁ~、その呼び方しないでって言ったでしょー♪」
おばちゃんたちは気付いていないが二人の間には火花がバチバチ散っている。笑顔で交わされる彼らにしか分からない戦いが密かに繰り広げられているのであった。問題はエインたちのラインである。シルヴァが熱々の挽肉をトレーに載せて棚に置こうとしたとき、アイリーンがわざと彼女の足を踏みつけて転倒させた。熱々の挽肉がシルヴァの顔面にかかる。しかしレベル999の彼女は特殊スキル「耐熱」を持っているため熱さは感じずノーダメージのようだ。そしてシルヴァのもう一つの特殊スキル「カウンター」で、他の熱々の挽肉をアイリーンの顔面にぶちまける。
「目に入った! 目に入った! エイン、どうにかしなさいよ!」
「えぇ!?」
どうしていいか分からずまたオドオドするエイン。そんな二人のやり取りを無視してピアズは心配そうにシルヴァの顔を優しく手で拭った。
「大丈夫ですか、シルヴァ様」
「ええ気にしないでピアズ……ダンダバ社長、見ていたかしら。秩序を乱しているのはこの方です。私達の志気を下げているのもこのアイリーンという方なのです」
「うっさいババア! それに社長だかなんだか知らないけど偉そうにしてんじゃないわよこの菓子くさ坊主!!」
アイリーンの言葉に口元が引きつるシルヴァ。一連の様子を見ていたダンダバ社長はアイリーンの素行を見て一言、
「君、クビ。地獄送り決定」
と言い放つ。その言葉にリンリンを含めその場にいたおばちゃん連中が全員作業の手を止めてアイリーンの事を哀れむような目で見た。なにやらひそひそと声が聴こえる。
「ダンダバ社長、この子の教育不足は私の責任です! どうか地獄送りにだけは……」
リンリンが頭を深々と下げてダンダバ社長に詰め寄った。その表情は必死である。
「地獄? なんなのそれ」
アイリーンが首を傾げて腕組みをした。噂を聞きつけてシャルロットたちもその場に駆けつける。みんなが揃ったところでダンダバ社長が説明を始めた。今の地獄は天国の真逆の世界で、生きる意味などなく何度も魔物に殺され何度も蘇るという事の繰り返しなのだそう。ただ救いなのは地獄では痛みはなく徐々に感情も無くなっていくのだそうだ。ダンダバ社長はこう見えて地獄社会とのつながりがあり、ルールに背いた者を地獄送りにしてきた事でおばちゃんたちの間では有名なのである。
「残念です。折角仲良く出来たのに……」
ランランが思ってもいない事を口にした。魔王ディオウスも心底愉快でならない様子。しかしアイリーンは……
「いいわ、魔物なんて怖くないし。逝ってやろうじゃないの」
ノリノリである。彼女は聖剣シルヴァラールを取りに作業着を脱ぎながらロッカールームへと向かった。エインたちがついていこうとするとダンダバ社長は、
「これはアイリーン一人に出した命令だから。君たちは地獄へは逝けないよ」
と食べかけのミルクボーロを口に含みながら言う。
「そんな! 駄目だよ、アイリーンはボクが守らなくちゃいけないんだ!」
必死に懇願するエインを見てダンダバ社長はしばらく考えて一つの提案をした。
「――感情を失いし赤髪の天使……それを連れ戻すというのなら希望者だけ地獄送りにしてあげるよ。ただし片道切符。天国に戻ってくるのは自分たち自身でどうにかするんだね」
それを聞いてリンリンとランランは、ダンダバ社長の顔を驚いたように見る。
「アイリーンとルンルンは似ているね。ただ違うのは君に勇気がなかっただけかな。リンリン」
「……」
ダンダバ社長にそう言われて黙り込むリンリン。前のめりになった彼女の肩にシュンシュンがポンと手をのせた。詳しく説明を聞きたかったがダンダバ社長がロッカールームへと向かっていく。その後を追ってエインたちも駆け出した。




