ダンダバ社長の伺察
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
今日はダンダバ社長もロッカールームにいる。最近の冷凍コロッケの売り上げが芳しくない事に小言を言いにきたのだ。彼はぺろぺろキャンディを舐めながら場合によっては作業員を辞めさせる旨を告げる。ザワつくおばちゃんたち。ダンダバ社長は小さな身体でエインたちの方へ後ろに腕を組みながらゆっくり歩いてくると、
「そこの四人。特に女二人、笑顔はどうした。顔が引きつってるぞ」
とジトッとした目で指摘した。アイリーンとシルヴァはお互いにこっそりと足を踏みあいながら、「はーい」と空返事をする。そんな二人にどうしていいか困ってしまったエインとピアズは苦笑いをしてダンダバ社長に謝った。食堂での一件を知っているみんなは呆れた顔で溜息をつく。
「諸君のどこが問題なのか。今日はそれを見させてもらう」
ダンダバ社長がそういった瞬間、おばちゃんたちが顔を見合って困ったような表情をした。つまりは作業員たちを伺察するということである。これは場合によってはクビもありうる大事態であった。ましてや今はアイリーンとシルヴァたちが喧嘩をしている最中。彼女たちが正常に働いてくれなければみんなにも飛び火がかかってくる。それだけは避けたいと思ったおばちゃんたちはエインたちの方を見やった。
(あの子たちを仲直りさせてあげなさい!)
エインとピアズは何となくであるがそんなおばちゃんたちの心の声が聴こえてきたような気がする。圧し掛かるプレッシャーに二人は額に冷や汗をかいて、
「シルヴァ様。麗しい笑顔をダンダバ様にお見せください」
「アイリーン笑って! 素敵な君の顔が台無しだよ」
と声がけをした。それを聞いた二人は怒りを抑えて出来るだけニコッと笑う。
「なんだ、笑えば華があるじゃないか。社訓を守るんだよ」
ぺろぺろキャンディがなくなったかと思えば小袋のミルクボーロを取り出し口にするダンダバ社長。彼はそれを舌で転がしながら、
「じゃあ社訓を読んで作業に取り掛かってくれたまえ」
とみんなに命令した。
――しかし、どうしても揃わない。アイリーンがイライラを抑えきれずつい早口で社訓を読むのでみんなの息が合わないのである。反対にそれを不快に思ったシルヴァはわざとワンテンポずらしてゆっくりと社訓を読んでいた。これではまるでかえるの合唱状態である。
「あんたたち、真面目にやりな! 作業が出来ないだろ!」
リンリンが目くじらを立てて怒鳴り散らした。みんなに迷惑をかけているのもそうであるが、今日はダンダバ社長の作業員伺察の日。冷凍コロッケ製造所全体の志気を下げているのが彼女たちだとわかれば二人ともクビにされてしまうかもしれない。リンリンはそう思ってきつく叱ったのである。それを知ってか知らずか、彼女たちはムスッと頬を膨らませて腕組みをして黙り込んだ。それを見ていたランランはリンリンを睨みつけながらどこか恨めしそうに小さく
「どうせこの人たちもいずれ地獄送りになるわ……」
と呟く。その声は誰にも聞こえていなかったようだ。
「……社訓はもういいよ。実際使えるかどうかを見せて」
ダンダバ社長はそう言うと、ロッカールームから出て冷凍コロッケ製造所へと向かっていく。おばちゃんたちは意気消沈してその後に続いていった。
「貴方のせいで私の印象が最悪です。どうしてくれるのですか」
「はぁ? まずは笑ったときの目尻のしわ何とかしたら。お・ば・さ・ん!」
アイリーンとシルヴァの喧嘩はまだまだ続いている。今にも殴りかかりそうなシルヴァを止めに入るピアズに何も出来ないエイン。彼は、
「二人ともやめてよぅ……みんなが怒ってるよ」
と宥めるように言うが作業員のおばちゃんたちや仲間たちから返ってきた言葉は、
「怒ってるんじゃなくて呆れてるんです!」
の一言だった。それを聞いて密かに含み笑いをしたのは魔王ディオウス。彼は人が仲違いをしたり裏切り合うのを見るのが大好きな陰気な性格である。エインたちが困っている姿を見ていい気味だと思った魔王ディオウスはよりいっそうやる気が増した。エインたちはアイリーンとシルヴァをなんとか冷凍コロッケ製造所まで連れて行く。そんな彼らを見守っていたのがリンリンとシュンシュンである。
「ルンルンを思い出しちゃったよ……せめてあの子らにはバラバラになってほしくないね」
シュンシュンが珍しく小さな声でリンリンに耳打ちをするように語りかけた。リンリンは彼女の言う事を聞き流すように無言で冷凍コロッケ製造所へと向かう。拳をぎゅっと握りながら。そんな彼女を見守りながらロッカールームの電気を消すシュンシュン。
「地獄から連れ戻せるものならね……」
そう言うとシュンシュンも冷凍コロッケ製造所へと向かった。誰もいなくなった暗いロッカールームでは聖剣シルヴァラールがロッカーの中で密かに輝いていた。




