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湯船での噂話(女湯)

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

 ――女湯――


 アイリーンは、湯船の中で三角座りをし、エインに対する不満をぶつぶつと念仏のように唱えている。気まずくなったおばちゃんたちは、リンリンを含め、シャワーを済ませたらみんな風呂場から出て行った。残っているのは、シャルロットと、シルヴァ、エリッサ、ランランだけである。最初はみんな何を言われても、空気を読んでアイリーンに話しかけなかったが、彼女がシルヴァに対して、


「王女と騎士。まさに王道よね~、憧れるわー。だって、人生イージーモードだもの。エインの良い所といったら逃げ足が速い事と、地図が読める事だけだもん。あーあ、私も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 と、言ってしまった事から、今まで黙って話を聞いていたシルヴァが、とうとう怒りを滲ませた。彼女は、おけの中に水を入れ、アイリーンの頭上にそれを浴びせる。ひゃっ! という悲鳴が風呂場に響いた。その場が一瞬にして凍りつく。

 

「……頭を冷やしなさい」


 そう言って、ぺたぺたとタイルを踏み鳴らしながら、シルヴァは風呂場から出て行った。そんな彼女の後姿を、ランランを除くみんなは、目を丸くして見つめる。一方、水を浴びせられたアイリーンは、再びシャワーを浴びに、無言で俯きながら浴槽から出た。エリッサが気を利かせて、プラスチック製の椅子を彼女に渡そうとするが、アイリーンは、それを平手で弾き飛ばす。ガラン! と大きな音がした。


「アイリーン、エリッサは気を遣ってくれたのよ。今の行為は酷いですわ」


「ははは、いいんだよ。いきなりあんな事されちゃ機嫌も悪くなるさ!」


 アイリーンの態度を咎めるシャルロットであったが、エリッサは全く気にしていないようである。彼女はマイペースに、桶を元に戻したら、浴槽の中へと入って、鼻唄を歌い出した。


「アイリーン、どうしてあなたはそんなに不器用なの? あっちの世界の時だって……」


「うるさい!」


 シャルロットの右肩に、アイリーンの投げた石鹸がぶつかる。もしここに姉思いのシャロンがいたら大喧嘩になるところだ。幸い天国ここでは、傷や痣は消えてなくなる。生前の物以外は。ここで、ランランがシャルロットを過剰に庇った。それにより、場の空気がよりいっそう重くなる。エリッサも、さすがに鼻唄を止めて、彼女たちを静かに見守っていた。


「エインさんは言っていました。()()()()()()()()()と。それなのに、お仲間にまで手を振るうなんて……原因は何なのですか、アイリーンさん」


 ランランが、適当な嘘をつくと、アイリーンの顔が強張る。もともと暴力的な性格の彼女は、頼りないエインを引っぱたいて、冒険を共にしてきた。アイリーンは、そのような接し方でしか「愛情」を表現できないのである。そして、大きく彼女の感情を揺さぶっている張本人から、シャルロットへの暴行の原因を聞かれたので、悔しいと思ったアイリーンは、冷たく乱れた髪のまま、風呂場から走り去っていった。


「風邪は……引かないか」


 エリッサはそう言うと、湯船から出て、もう一度シャワーを全体に浴びてから、シャルロットとランランに、もう風呂場から出ようと促す。アイリーンがちゃんと寮に戻っているかが心配だったからだ。なぜならば、彼女に水をかけたシルヴァが同室では、気まずいからである。アイリーンの性格を考えてみると、彼女が自分からシルヴァに歩み寄ることはまずない。エリッサたちが急いで髪などを乾かして、部屋に行ってみると、そこには案の定シルヴァ一人だけしか居なかった。事情を聞いた彼女は、エリッサたちと一緒に、寮から抜け出して、アイリーンの捜索を始める。その様子をこそっと柱の影から見つめていたランランは、にやりと悪戯っ子のように笑って、そっと彼女らの後をついていった。

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