嫉妬心は燃え移る
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
そんなこんなで数日が経ってしまう。二人の溝は深まったままだ。静かな製造ラインの中でアイリーンが突然、
「ピアズって騎士なのよね? やっぱり誰かさんと違って立ち居振る舞いがいいわ。あ~あ、私もこんな人と出会えてたらなぁー」
そう言って、エインを挑発してきたのである。それにカチンときた彼は、
「君にシルヴァ様の代わりは無理だね。だって、おしとやかさが無いんだもの」
そう言い返した。困ってしまったピアズとシルヴァは、二人の仲を取り持とうとするが、そんな彼らの腕を強引に引っ張り合い、エインたちは思ってもいない事を次々に口走る。
「ピアズの方が紳士で素敵よ!」
「シルヴァ様の方が淑女だね。知的だし!」
「何よ、自分の魅力で返せないの?」
「君にその言葉、きっちり返すよ」
痴話喧嘩に頭を抱えるピアズとシルヴァ。まるで物を取り合うように、二人を自分の方へ引き寄せるエインとアイリーン。
「貴方達の恋愛事情に私達を巻き込むのはお止めなさい」
「シルヴァ様への忠誠を誓う心に揺らぎはありません。今一度ご自身を見つめなおしてください、アイリーン殿」
その様子を見ていたリンリンは、ランランに、エインたちの誤解を解いてあげるように説得した。なぜかといえば、全く作業が進まないからだ。周囲の者たちも空気を読んでか、シーンとしている。エインたちの喧嘩の声はますますエスカレートしていった。
一方、彼らの一番近くにいる、痛んだじゃが芋を取り除く作業をしていたシャロンとコーリンは、次第に本性を顕にしていく。いつもの可愛らしい表情とは打って変わって、心底うんざりした顔で、黙々と作業をこなしていた。そんな中、シャロンが誤って、コーリンの右足を踏んでしまう。
「……うわぁ、シャーロ君ってば陰湿……」
「君の足が邪魔だったんだよねー。あとその呼び方しないでくれるかな」
「ごめんごめん、シスコンのシャーロ君♪」
(……弓があったら殺したい)
おばちゃんたちがいる手前、シャロンも自分の黒い部分はあまり出したくない。彼は唇をギッと噛んで、作業を再開した。険悪な雰囲気の中、彼はなんとか自分のキャラを保っていたのである。たまたま同じじゃが芋に手が伸びたときは、二人の間に殺伐とした空気が流れた。
エインたちのラインから遠いエリッサは、そんな事が起きているなど知らず、マイペースに鼻唄を歌いながら、冷凍コロッケを箱に詰めている。休憩の時間になると、ピアズとシルヴァは、
「頭を冷やしなさい」
とだけ言って、エインたちのもとから離れた。くだらない痴話げんかに巻き込まれて、自分たちの関係までぐちゃぐちゃにされては困る。リンリンとランランもその場を離れた。お互いに目を逸らすエインとアイリーン。こうなれば意地の張り合いである。
ぺディシオンはクレーム処理室に行き、魔王ディオウスに、
「今度は天国で何を企んでいる。素直に言わないと、また痛い目にあうぞ」
と脅しをかけたが、彼は平然とした顔で、
「流石は我の僕であっただけはあるな、早速嗅ぎつけたか。だがもう遅いわ! 一度失った信頼関係は元には戻らん。お前と我がそうであるように」
と言ってのけた。ぺディシオンは慌ててエインに魔王ディオウスの企みを伝えようとするが、魔王ディオウスはそんな彼の腕を引っ張って、耳元で囁く。
(お前も我の仲間になれ)
それは、魔王ディオウスの得意とする呪いであった。その言葉を聞いたぺディシオンは、迷うことなく頷き、彼の前で跪く。
「ランランとともに沢山の嘘をつけ。そしてエインとアイリーンの仲を完全に引き裂き、冷凍コロッケ製造所の志気を下げるのだ。永遠に死なぬのなら、心を壊してしまえばよい。我はただそれが見たいだけだ」
「かしこまりました。ディオウス様」
ぺディシオンは完全に魔王ディオウスに取り込まれてしまった。これで、ゲキヤスフーズの策略を知る者は誰もいなくなってしまう。そんな事とは知らずに、今日も長い長い製造作業が終わるのであった。大勢が不満をかかえながら、汗を洗い流すためにお風呂場へと向かう。男湯ではぺディシオンと魔王ディオウスが。女湯ではランランが、それぞれエインたちを惑わす嘘をつくようにと、口裏を合わせていた。彼らの仲間分断工作にエインたちは嵌ってしまうのであろうか。




