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揺らぐヘタレ心

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

 ――次の日。


 エインたちが食堂で列を作っていたときのことである。そこに突然アイリーンが、エインの後ろへ強引に割り込んだのだ。驚いた彼は、朝の挨拶をしてから、順番を守るように促す。


「エイン。今日は私とご飯食べましょ! まさか先約なんてないわよね?」


 魔王ディオウスとぺディシオン以外のみんなは、ただ単にアイリーンが、ランランに嫉妬しているのだと思い、その光景を微笑ましそうに見ていた。


「ほらほら、炒飯大盛りにしてあげるからさっさと席につきなさいな。冷めちゃうよ?」


 食堂のおばちゃんシンシンが、いつもの炒飯とコロッケを盛りながら言う。


「あ、ありがとうございます。じゃあアイリーン、行こうか」


 エインとアイリーンが座ったのを確認したランランは、わざとエインの前に座った。そしてにっこりと笑い、


「おはようございます。今日も頑張りましょうね」


 と挨拶をする。ここはアイリーンの手前、エインもデレデレするわけにはいかなかった。彼は、若干頬を赤く染めて、そっけなく言葉を返す。その様子を見て勝ち誇ったように、アイリーンはランランの方を見た。しかし、それも彼女の策略。ランランは少し落ち込んだように、


「……私、お二人の邪魔なようですね……」


 と綺麗な眉をひそめて言う。今にも泣き出しそうな顔だ。そんな彼女の表情に動揺したのか、エインは、


「そんな事ないよ! ランランさん、()()()()()()()()()()


 と言ってしまう。口元を隠していたランランの口角が歪に上がった。昨日の嘘の約束が、本当になってしまったのである。カッとなったアイリーンは、まだ出来立ての、熱々の炒飯をエインの顔面にぶつけた。それを見て心の中で大爆笑する魔王ディオウス。まだいただきますの号令もないまま、朝食もとらずに、席を立つアイリーン。食堂から出て行くつもりだ。エインは訳がわからない様子で、顔に付いた炒飯を拭いながら、


「アイリーン。ボク、君の心がわからないよ!」


 と、彼女を呼び止めようと手を伸ばす。すると、アイリーンがチラッと振り返った。彼女は、悔し涙のようなものを浮かべながら、食堂の外へと走っていく。


「エインのばかー!!」


 それは食堂中に響き渡った。おばちゃんたちはクスクス笑いながら、炒飯まみれのエインを見やる。リンリンもその様子を見て、


「汚いねぇ、まず顔を拭きな」


 と、珍しく微笑みながらエインにタオルを渡してきた。


「私が拭いてあげます。ジッとしていてくださいね」


 エインに差し出されたタオルを、ランランがシュッとかすめとって、彼の顔に当てる。なるべく手の感覚がわかるように、わざとゆっくりご飯粒を取り除いていた。あえて話さない。この沈黙がたまらなく恥ずかしい。エインの顔はみるみるうちに赤くなっていく。そんな光景を、食堂の入り口の隅でジトッと見ていたアイリーン。


「あ、アイリーン、いつの間に戻ってきてたの!?」


「……まずは鼻血を拭け。蛆虫が!」


 アイリーンが、厨房にあった包丁をエインに向かって投げつけた。それは、彼の脳天にクリーンヒットし、プスッと刺さってしまう。


「まぁ、なんて酷い事を……えい!」


 ランランが、突き刺さった包丁を引き抜いた。食堂に血花ちばながピューッと噴出す。しばらくエインは意識が混濁としていたが、次第に傷口もふさがり、意識の方も元に戻っていった。そんなこんなで朝食の時間は終わり、今度はいつも通り冷凍コロッケ製造所で働かなくてはいけない。マカロは先に配送に出かけていった。他のみんなもそれぞれの持ち場につく。気まずいのはピアズとシルヴァ、リンリンである。ましてやリンリンは、自分の孫娘とエインたちが三角関係にあると知っているからだ。


「罪作りな子だよ。全く」


 リンリンは、終始無言で挽肉とヘヴンズソルトを混ぜているアイリーンを見て言う。一方、エインにも怒りは溜まっていた。一度大切な仲間を裏切ってしまったことは事実であるが、そこまで自分の信頼がないのかと。信じてくれると言ったのは嘘なのか。そんな思いが彼を過っていた。それになぜ、言葉ではなく、暴力で訴えかけてくるのか。それが彼にはわからなかった。そんな時に優しくされたら、誰でも心が揺らぐもの。ランランは、ここぞとばかりに優しい言葉をかけ続ける。次第にエインは、アイリーンを遠ざけるようになった。製造ラインに緊張が走る。シャロンやコーリンたちも、段々無言で作業をするようになっていった。アヴァロたちの陽気な歌も聴こえなくなり、コロッケの味は以前のものと同じになってしまう。すると、魔王ディオウスのもとにかかってくるクレームの数が増えてきた。


「味が落ちた」


「前よりまずくなった」


「これならゲキヤスフーズのコロッケを買う」


 そんなクレーマーの声を聞きながら、彼は嬉々とした様子でガッツポーズをする。計画通りに事が進むと、どうしてこうも心地がいいのであろうか。またも訪れたヘヴンズフーズの危機。彼らは乗り越えられるのであろうか。

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