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可憐な白鳥には毒がある

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

 いつものようにエインたちがロッカールームへと向かう。彼らは長く働く中で、一つだけ見てみたいものがあった。それは、ランランの「本来の姿」だ。聞けば彼女はゲキヤスフーズで一日三食提供される飲茶やむちゃの食べすぎでまん丸ボディとなってしまったらしい。


「そうですわ。アヴァロさんの力なら元に戻るかもしれませんよ」


 シャルロットが手を合わせて提案をする。みんなの注目がアヴァロとランランに集まった。二人は気まずそうにしていたが、ランランが


「醜い姿ですものね。せめて容姿だけは……」


 と、お腹をふにふにさせながら小さく呟く。それを聞いてアヴァロは仕方なく歌う準備を始めた。


「ふくら雀よ。孔雀であった記憶を思い出せ」


 彼が歌うと、ランランの姿がみるみるうちに小さくなっていく。服もそれに合わせて縮んでいった。エインたちの目に映ったのは、健康的でふくよかな女性ではなく、どこか幸の薄そうな雰囲気を醸し出す白鳥のような肌にスラッとした身体の女性である。ランランはエインの前に立ってくるりと一回りし、


「どこか変わりましたか?」


 と尋ねた。彼は目の前の美人に鼻の下を伸ばしながら


「き、綺麗になりましたぁ!」


 と間抜けな声で言った。それに少しだけ不快感を覚えたのはアイリーンである。彼女はエインの鼻をつねっては、腕組みをすると頬を膨らませて彼にそっぽを向いた。そして、ランランはロッカールームの鏡を見つめながら、


「昔の姿に戻るなんて、まるで夢のようです……」


 と感嘆の声を漏らしている。そこにリンリンたちがやってきた。真っ先に驚いたのはリンリンである。記憶の中の孫娘が自分の方を見て軽く微笑んだ。嬉しさを隠すためか、リンリンは彼女に対して、細すぎるだの今すぐにでも死んでしまいそうな顔をしてだのと、ブツブツ小言を言っている。その様子をしみじみと眺めるエインたち。


「ほら! 早く着替えな。作業に遅れちまうよ!」


「あら、本当はもっと見ていたいのではないかしら」


 シャルロットがシャロンの頭を撫でながら意地悪そうに微笑みながら言った。ロッカールームに笑い声が響く。そんな中、ゲキヤスフーズから来た作業員たちがまたなにやらこそこそと話していた。そこに魔王ディオウスが加わる。


(貴様らは産業スパイという者たちであろう? ならば、エインを利用せよ。奴は簡単に騙される……なぜ我が貴様等に味方するのかだと? 簡単だ。我の天国ここでの地位を落としたエインたちと、我を殺したピアズたちに復讐をするためだ)


 ゲキヤスフーズから来た作業員たちは白状したのか魔王ディオウスの前で自分たちが産業スパイであることを耳打ちした。なぜ彼が「産業スパイ」という言葉を知っていたのかと言うと、クレーム処理室のマニュアルブックにそれと類似した単語が載っていたからである。


 みんな作業着に着替え終わり、おばちゃんたちが続々と持ち場へついた。聴覚の優れたぺディシオンは魔王ディオウスたちの会話が微かに聴こえていたが、どうせまた失敗するであろうと芽取り室へと向かう。何も知らないエインは、なぜアイリーンが不機嫌なのかわからないままピアズとシルヴァたちの後ろを歩いて持ち場へと向かった。ランランはそんなエインとアイリーンの様子を見てニヤリと口角を不気味に吊り上げて笑う。


(エインを利用せよ。奴は簡単に騙される)


 ランランの頭の中には、ある計画が浮かんでいた。それは、自分自身を使った色仕掛け作戦だ。見たところピアズはシルヴァ以外の女に興味がなさそうな堅物である。が、エインは違った。美しいランランを「女」として見ている。エインとアイリーンの仲を引き裂いてエインをこちら側につけて、ヘヴンズフーズの作業員みんなを混乱させようと思っていたのだ。果たして、ランランたちの計画は上手くいくのだろうか。その頃、魔王ディオウスは自分で沸かした茶を飲みながら、


「……まぁ、どちらに転んでもよい。我は見物させてもらうとしよう」


 そう呟いて、適当にクレームを処理していた。

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