甘い香りのする社長
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
エインたちが天国に転生して一ヶ月ほど経ったある日。彼らは新たな作業員たちといつも通り作業をこなしていたのであるが、シュンシュンが慌てた様子で
「今日、社長が来るらしいよ。大変だ!」
と、あちらこちらに触れ回っている。それを聞いた作業員のおばちゃんたちはみんな緊張した顔つきをした。もちろん噂はエインたち全員の耳に入る。どうやらその社長というのが曲者らしく、作業員の粗を探しては重箱の隅をつつくように嫌味を言ってくるらしい。それに物凄くケチなのだそうだ。名前は「ダンダバ」。しかし、傾きかけている会社をなんとか維持させていることや一度会社を辞めたランランたちを受け入れた度量の深さはさすが社長といえるかもしれない。
「来るのは今日の午後9時。それまでに作業を終わらせなきゃね」
シュンシュンが言うには、どうやらダンダバ社長はロッカールームでエインたちを含む新人たちがどんな者か見たいらしい。そんな中、ランランが不安そうな顔をする。どこか焦ったような、そんな顔であった。
「どうかなされたのですか?」
「いいえ。きっとうまくできますから……」
ピアズの質問になんだかよくわからない回答をするランラン。彼女はどこか後ろめたそうにへヴンズソルトの入った袋を眺めている。エインたちは不思議に思いながらも時間になるまで作業を続けた。
――午後9時。
作業員全員がダンダバ社長が来るのを待っている。ぺディシオンが鼻をクンクンさせて、どこか甘い匂いを感じ取った。すると、しばらくしてロッカールームの扉が開かれる。そこには背の小さな男の子がいた。こどもにも拘らずサングラスをしていて、ぶかぶかのスーツを着ている。
「やぁ諸君。ダンダバだ。見ない顔が沢山だね。リンリン、紹介してくれ」
名指しされたリンリンはエインたちを紹介した。てっきり厳ついおじちゃんが来るのだと思っていた彼らは目の前のダンダバ社長を見て、思わず笑ってしまう。それに気づいたのか、彼は吸いもしないタバコに火をつけて魔王ディオウスの手の甲にそれを押し付けた。
「あっつ! なぜ我だけに!?」
「なんとなく。ムカつく顔してたから」
ダンダバ社長の答えに納得のいかない様子の魔王ディオウス。手の甲には出来立ての火傷のあとがくっきり残っている。しかし、しばらくしたらそれは湯気とともに消えていった。そして、ひときわ目立つランランの姿を見るとダンダバ社長は、
「リンリンがしつこく採用しろといったから受け入れたんだ。ちゃんと働けよ」
と言って社訓の書いてある紙を眺める。新たに加えられた目標に彼は納得したのか、小言一つ言わずに形式的な挨拶だけをしてその場を去っていった。
「えらく小さな社長だねぇ」
エリッサがクスクス笑う。その笑顔に見惚れるマカロ。
「あの甘い香りは何だ。クッキーのようにも思えたが……」
ぺディシオンがダンダバ社長から香ってきた甘い匂いの正体についてリンリンに尋ねた。どうやらミルクボーロという乳幼児向けのお菓子らしい。彼は甘いものが大好きで、それらを食べている時は大抵機嫌がいいという。
エインたちが笑顔で話している中、ゲキヤスフーズからやってきたランランたちがなにやらこそこそと話しをしているのを魔王ディオウスが発見する。そこで彼は直感が働いた。
(奴らは何かを企んでいる)
気がつけばもう午後10時。エインたちは各々の部屋に戻り明日に備えて眠る。そんな生活が半年ほど続いた。寮生活をしているうちに、仲の悪かったエインたちは次第に心を許せる仕事仲間となっていく。しかし、ある日を境にその絆が崩れ去ることになることになるとは、今の彼らにはわからなかった。




