新たな目標を掲げよ!
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
――面接当日。
5日も経てば作業にも寮生活にも慣れてくる。不器用なマカロも一人前にトラックの運転ができるようになっていた。彼は面接に訪れるランランたちの姿を見ることはできないが、配送係り志望の若者天使がゲキヤスフーズからやってくるらしい。
「どんな子がやってくるのかねぇ~」
チュンチュンが助手席に座りながら、冷凍コロッケをトラック内に運んでいるマカロに呟く。彼は頭に手をやり、
「俺より使える天使だと困ります」
とだけ答えた。
「ひゃひゃひゃ、そりゃそうだ。がんばるんだよ!」
荷物を全て詰み終えると、マカロたちは安全運転でヘヴンズ物流センターへと向かった。そして、彼らが出発してしばらくしたあと、リンリンは、エインたちに質問攻めにされていたのである。話題は彼女の孫娘であるランランについてだ。リンリンは最初こそは無言を貫いていたが、次第に様々な情報を口にするようになる。
「性格は私と違って八方美人だね。容姿も……まぁ普通ってとこじゃないかい。細身で青白くて無駄に髪の長いヤツだったね。あんたたちからすれば幸薄そうな女さ。天流ドラマに出た方が視聴率稼げるんじゃないかね」
「天流ドラマ?」
エインが聞き覚えの無い言葉に反応した。それは、天国で有名なテレビという物の中で繰り広げられる演劇のようなものであるとリンリンは言う。天国の天使は死ぬ事がないために、死や病などを描いた悲劇作品が流行るらしい。
「悲劇のヒロインが似合うだなんて。ほとんど自慢じゃない」
アイリーンがニタッとした顔でリンリンを見た。リンリンは少し頬を赤くして黙々と作業をこなす。その様子にエインたちはニコニコしながら面接時間の午後になるのを待った。
――そして……
「面接にやって参りました。ランランです」
「あ、あんた……!」
事務所で待機していたリンリンの目の前に現われたのは、スライムのようなふっくらした顔に、パンダのようなガッシリした身体、ふにふにのお腹の女性である。確かに彼女は自分のことを「ランラン」と名乗った。リンリンは彼女を何度も口をあんぐりと開けて見返す。目の前の人物にリンリンの中のランランの面影は微塵も無かった。こそっと様子を窺っていたエインたちも予想外の人物が来たことに驚いている。
「……ず、随分見ないうちに……こう、健康的になったじゃないか。とにかく座りな」
(受け入れちゃった!)
話しによると、他の者たちはあとで来るらしい。
「えっと、あんたはエインたちと同じ持ち場希望だね」
「エイン? 聞いたことの無い名前ね。最近入った人?」
ランランの質問にリンリンは今までの経緯を話した。すると、彼女はエインたちに興味を持ったらしく、「お会いしたい」と上品に口元へまぁるい手を添える。見慣れてみると愛嬌があるものだ。こうしてランランの面接は終わった。「採用」である。そのあとに来た者たちも全員採用された。おばちゃんだらけであった冷凍コロッケ製造所に若者が来たことによって作業場は段々賑やかになっていく。こうなれば、目標が生まれてくるもの。
一、打倒! ゲキヤスフーズ!!
ロッカールームの社訓に、力強くそう書き足された。




