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1件の電話

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

 クレーム処理室に鳴り響く4台の電話の音。魔王ディオウスは、はぁっと息をついてそのうちの一台の受話器をとる。どうせまたマカロの起こしたトラック事故についてどやされるのであろうと思っていた彼は、適当に聞き流そうという気であった。受話器越しには若い女性のか細い声がする。


「あの、へヴンズフーズのコロッケを頂いたのですが……」


「はいはい、美味しく無かったですね。すみません」


「その反対です! 物凄く美味しかった、ところで祖母は元気ですか?」


 突然の質問に首を傾げる魔王ディオウス。彼が女性の名前を尋ねると、彼女は自身を「ランラン」と名乗った。話を聞いてみると彼女は「(有)ゲキヤスフーズ」で働く天使なのだそうだ。これは利用できそうだと思った魔王ディオウスはランランに彼女の祖母の名前を尋ねてみた。きっとここで働いているおばちゃんの誰かであろう。運がよければゲキヤスフーズとコネクションを取れるかもしれない。


「……リンリンです」


 魔王ディオウスは心の中でガッツポーズをした。冷凍コロッケ製造所のお局であるリンリンの孫娘が、ライバル社であるゲキヤスフーズで働いているというのには何か訳があるのであろう。もしかしたら人に話せない秘密でもあるのであろうか。彼は真相を探るべくランランともう少しだけ話をすることにした。


 その頃、アイリーンとシルヴァから朝食の事について聞かされたエインとピアズは、がっかりしたような顔をして黙々と作業をしている。リンリンはそんな彼らの後姿を見て、若干申し訳なさそうに眉をひそめた。


「だいぶ慣れてきたじゃないか。助かるよ」


 リンリンの言葉に返事をする者はいない。エインたちは永遠に冷凍コロッケ製造所で働き、ボロボロの寮の中で同じ味の炒飯と安物のコロッケだけを食べて生きていくのである。何の楽しみも無く。それを知らないシャロンとコーリンは、おばちゃんたちに褒められるため一生懸命しのぎを削って働いていた。もちろん、「どちらが一番可愛いか」をめぐって。アヴァロは食に対して興味が無いらしく、朝食の話を聞いても特に嫌な顔もしない。昨日と同じ歌を詠い、美味しいコロッケを作り続けている。


 そんな中、リンリンのもとへ魔王ディオウスがやってきた。


「孫娘から連絡があったぞ」


「何だって!?」


 リンリンが組んでいた腕をほどいて彼のもとへと詰め寄る。


()()()()()()()と言っていた」


 それを聞いたリンリンは顔面蒼白になった。そして力が抜けたように床へ座り込む。これは嘘を吐くのが得意な魔王ディオウスの作戦であった。ランランと話をしてある事を知った彼は、リンリンが最も悲しむ言葉を放ったのである。これでお局の正気を崩す事に成功した。そして孫娘とリンリンの関係を最も知る自分が製造所で有意に立てると、魔王ディオウスは思ったのである。


「お立ちなさい。リンリン、真相は自分の耳で確かめるのです」


 シルヴァがリンリンに手を差し伸べた。


(まずいっ! 電話繋いだままだった!)


 魔王ディオウスが冷や汗をかいているのを見て怪しんだエインたちは作業そっちのけでクレーム処理室へと走っていく。仁王立ちの魔王ディオウス。こちらも顔が真っ青である。


「親族同士の揉め事は王族にもあるので、なんとなくですが、わかるのです。話せるうちに話さなければ、本当に縁が切れてしまうかも知れないのですよ。それでもいいのですか?」


「……あんた、良い事言うじゃないか……」


 リンリンはシルヴァの手を強く握り、スッと立ち上がった。そしてオロオロしている魔王ディオウスを無視してクレーム処理室へと向かう。自分自身でランランの真意を聞くために。


(我、詰んだ……)


 彼女たちの背中を見ながら魔王ディオウスは復讐に失敗した事と、製造所での信頼を失う事を覚悟した。

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