ディオウスの企み
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
エインたち全員が冷凍コロッケ製造所のロッカールームへと集まる。よく見ると壁に一枚の紙が貼ってあった。そこには汚い字でこう書いてある。
【へヴンズフーズ5つの心構え】
一、お客様の食卓に笑顔をお届けします。
一、お客様のために毎日笑顔で働きます。
一、お客様の声に紳士に耳を傾け、日々向上します。
一、お客様ファーストを心がけます。
一、お客様の笑顔は我々の喜びです。
「これはなにかの暗号かい?」
エリッサがおばちゃんたちに尋ねると、これがへヴンズフーズの社訓であることを説明した。ピアズたちはそれを「騎士道精神」のようなものだと理解したが、エインたちは抽象的な言葉の羅列に若干の違和感を覚える。もっと具体的な指針があるほうがやりやすい。そう思ったのだ。
「今からこれを大きな声で10回復唱するよ!」
「お待ちください。誓いとは、心の中で静かに思い浮かべるものではありませんか」
ピアズが胸に手を当てて真剣な眼差しでリンリンを見る。社訓を読んだ彼は、お客様とは守るべき市民であり、コロッケ作りとは主君への忠誠心を表すものだと勝手に解釈したのである。
「うるさいねぇ、コロッケ作るのに誓いもクソもないんだよ! 形式的にでもこれやらなきゃ作業できないんだ!!」
「これは、暗記しないといけないのか?」
マカロが不安そうにリンリンに尋ねる。当然だと答えた彼女に彼は額に汗をかいた。その様子を見て、エリッサは、
「大丈夫さ。リズムで覚えりゃ良いんだよ。ほら、指鳴らしながら唱えてみ?」
と言うと色っぽく笑う。そんな彼女に頬を染めるマカロ。エインたちはそれを見て、すぐに彼がエリッサに恋をしている事に気づいた。
「ったく、じゃあ始めるよ! せーの……」
「おきゃ――」
魔王ディオウスが見事にフライングしてしまう。ジトッとした視線が彼に降り注ぐ。やっと魔王ディオウスの存在に気づいた最強勇者一行。シルヴァが笑顔で彼に近づき、素手で彼の首を締め上げた。レベル999の握力。半端なものではない。泡を噴いて失神する魔王ディオウス。彼女が手を離すと、再び彼は蘇った。
「ひとつ、お客様の……って読むんだよ。わからないなら聞きな!」
「……すみませんでした。もうしません。許してください。お願いします……」
どんどん情緒不安定になっていく魔王ディオウス。同情したおばちゃんが飴玉をくれただけで大粒の涙を流すようになっている。そこには一度世界を征服していた者としての面影は無かった。とにかく社訓を読むエインたち。予想通りマカロが随分と足を引っ張ったが、エリッサの協力のおかげでなんとか覚えられたようで全員作業着に着替えて持ち場へつく。
そんな中、ひっそりとエインたちに復讐を考えていたのが魔王ディオウスだ。今度は天国を征服しようと企んでいたのである。そのために必要なのは、仲間であったぺディシオンをスパイとして取り込むこと。そしてへヴンズフーズの覇権を握ることであった。また、リンリンが食堂で話していた、「(有)ゲキヤスフーズ」も利用してやろうと考えていた。彼はあの時こっそり聞き耳を立てていたのである。魔王ディオウスはクックと含み笑いをすると、クレーム処理室へと入っていった。
リンリンは、一人になると、社訓の書かれた紙を見つめながら、
「ランラン。こっちは大分賑やかになったよ。そっちはどうだい?」
と、複雑な表情をしながら言う。そして大きなマスクを被ると、彼女もエインたちの所へと向かった。




