はじめての寮生活2
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
――早朝4時。
目覚ましの合図がなる。眠たい目をこすりながらエインたちは各階に備えられているお風呂に入り、顔を洗って歯を磨き、地下の食堂へと足を運んだ。そこには大らかな人柄のおばちゃんが一人で全員分の料理を作っている姿が見える。
「はじめまして。新入りさんたち、私はシンシン。待っててね、今美味しい料理を出してあげるから!」
ガッツポーズをするかのように腕を曲げる食堂のおばちゃんシンシン。エインたちはお盆を持っておばちゃんたちの列に並んだ。なにやら芳ばしい香りが漂ってくる。同時に彼らが嗅いだことのあるにおいも。
「炒飯に揚げたてのコロッケか」
ぺディシオンが鼻をクンクンさせながら言った。最強勇者一行は食べたことのない料理を一目見るべく興味津々で順番を待っている。魔王ディオウスはひっそりと列の最後尾でそんな彼らを恨めしそうに睨んでいた。そもそもピアズたちに負けなければこんな惨めな生活を送らずに済んだのに、と思いながら……
「全員席に着いたね! 礼儀正しく、ご飯一粒残すんじゃないよ!」
リンリンが机の上でそう言うとおばちゃんたちがみんな揃って、「いただきます」と手を合わせ、黙々と朝ご飯を食べ始める。エインたちも同様の仕草をしてからそれらを食した。ピリッと食欲をそそる豆板醤の独特の風味。ふわふわ卵のパラパラご飯。食堂の炒飯は素直に美味しい。だが一味たりない。おばちゃんたちが食事をしている中、アヴァロが小さなハープを具現化してある歌を詠いだす。
「食べてみなが福顔 そんな炒飯を欲す」
すると全員の机の上の炒飯が白銀に輝いた。それを口にしたおばちゃんたちからは次々と「美味しい!」という声とともに自然な笑顔が漏れた。そしてみんなが活き活きとした顔で談話をし始めたのである。その様子を見たシンシンはちょっとだけ複雑そうな顔をして
「まぁ、みんなが喜んでるんならそれでいいか」
と、腕を組み溜息をついた。
「これがコロッケですか。私たちが作っている」
「……違うよ」
シルヴァの前に座っていたリンリンが珍しく目を伏せて、小さな声で語りだす。
「このコロッケは、有限会社ゲキヤスフーズのものなんだ。従業員の量も天国一。オートメーション化ってヤツもここよりはるかに進んでて、何より安い」
「なんでライバル社のコロッケなんか食べてるのよ」
リンリンの横に座っていたアイリーンが不思議そうに尋ねると、彼女は
「社長が食堂の経費を削ってるんだ……」
と、コロッケを箸で割りながら言った。話を聞いていたアイリーンたちがそれを口に含む。少しふにゃっとしている中身。肉に歯ごたえは無くじゃが芋も水っぽい。だが食べられないわけではない。彼女たちはもしかしてと思い、聞いてみた。
「ずっとこの朝ごはんが続くわけじゃないでしょうね」
「炒飯というものも、3日食べれば飽きますよ」
アイリーンに続きシルヴァも念を押すように言う。しかし、返って来た言葉は、
「あぁ、毎日これさ。あとで男どもにも教えてやりな」
の一言であった。それを聞いた女性陣は精神的ダメージを食らう。
「あらあら、天国の魔王は、社長様のようですわね。私、お会いしてみたいですわ」
シャルロットがレンゲを握りつぶして頬に手をやりながらニコッと微笑んだ。「魔王」と聴こえてビクッと身体を強張らせる魔王ディオウス。彼は何か仕込まれていないか慎重になりながら炒飯とコロッケを食べている。エインたちは、そんなことなど知りもせず食事をしていた。
「ふ、さすが田舎者勇者。食べ方で里が知れるな」
「食べれれば良いんだよ。いつまで上流階級気取りなんだい?」
ピアズとエインが言い争っているのを放って、男性陣は食器類を返して部屋へと帰っていく。
「いつまでやってんだい! 早く部屋に戻って、製造所に行きな!」
リンリンが鋭い眼光で二人の言い争いを止めた。彼らはブツブツ言いながら製造所へと向かう。早朝5時。これからみんな揃って社訓を読むことになっている。果たしてうまくいくのか。リンリンは頭を抱えて、喧嘩しながら歩く二人の後姿を見ていた。




