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はじめての寮生活

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

 一日の作業を終えたエインたちは、おばちゃんたちとともに冷凍コロッケ製造所近くの古びた寮へと案内される。その外観を見て最強勇者一行はありえないといった表情をしていた。野宿に慣れていたエインたちは特に驚く様子も無く寮の扉を開いた。


「きゃっ! なんですか、今のは」


 シルヴァがピアズの方へ駆け寄る。勢いよく飛び出してきたのは、みんな大嫌いなゴキブリ一匹。それをシュンシュンが素早く捕まえて握りつぶした。その衝撃的な光景に彼女は


天国ここにも、魔物モンスターがいるのですね」


 と、ピアズたちに対ゴキブリ用の陣形を取らせる。その大げさな行動を見てエインたちはクスクス笑っていた。野宿に慣れていた彼らにとって虫など恐るるに足らない存在であったのである。


「姉さん、ここお化けが出そうで怖いよー」


 シャロンが甘えた声を出してシャルロットの手を握る。もちろん彼はゴキブリやお化けなど怖くない。自分とキャラが被るコーリンとの差をつけたかったのだ。


「大丈夫だよ、シャロン君! 確かにちょっと怖いけど、みんなと一緒なら怖くないよ、ね。みんな!」


 そう言って笑顔で手を差し出すコーリン。てのひらには小さな飴玉が一つ握られていた。それはロッカールームで彼がおばちゃんから貰った物らしい。シャロンは飴玉を受け取り、底知れぬ敗北を感じた。腹黒く人気を取ろうとする自分と、純粋に株を上げていくコーリン。シャロンはブスッとした表情で飴玉を静かに噛み砕きながらシャルロットにくっ付く。


「部屋割りは入り口の掲示板に書いてあるから、さっさと部屋に入りな」


 そう言うとリンリンは他のおばちゃんたちと一緒に寮の中へと入っていった。エインたちが薄暗い照明を頼りに掲示板の部屋割りを確認してみると、それぞれ男部屋女部屋で別れている。2階3号室が、アイリーンとシルヴァ、エリッサ、シャルロット。1階1号室がエインとピアズ、ぺディシオン、アヴァロ。そして、2号室がシャロンとコーリン、マカロであった。部屋の構造は同じで、二段ベッドが二つ用意された簡素な空間である。


 

 1階1号室。 

 

「……俺は下段で寝よう」


 ぺディシオンが上段をめぐって睨みあっているエインとピアズに配慮して下段のベッドに横になった。アヴァロも空気を読んだのか、下段のベッドに座り小さく歌を詠っている。必然的にエインたちが上段で眠ることになった。



 1階2号室。


 部屋の扉が閉じられるとマカロは異様な空気を感じる。


「君って、僕のこと潰そうとしてない?」


「なんのことかなー? あ、お化けって寝首掻っ切っちゃうみたいだよ。気をつけないとねー」


「ほんとだね、()()()()()


(空気が重い……)


 マカロはしばらく二人のやり取りを見ることとなる。



 2階3号室。


 アイリーンとシルヴァが本気の枕投げをしていた。その横で和やかに談話をするシャルロットとエリッサ。枕投げの音は凄まじく、同じ階のおばちゃん全てに聞こえている。鬼のような形相をしたリンリンが寝巻き姿で彼女らを怒鳴り散らしてようやく収集が付いた。


「注意してる方がうるさいわよねー」


「そうですわ。無断で乗り込んでくるなんて魔物モンスター以下ですよ」


「あんたら、都合のいい時だけ息合わすんじゃないよ!!」


 シャルロットたちは呑気に会話を続けている。


 魔王ディオウスの部屋はトイレに一番近い1階5号室であった。理由はトイレットペーパーの芯でトイレを詰まらせたからだという。


「おのれ、この恨み……晴らさで置くべきか……」


 魔王ディオウスは一人枕を濡らしながら、エインたちへの復讐を考えていた。まるでお化けのように……

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