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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 45

先輩達が帰った後、私はレコーディングスタジオを掃除していた。

もちろん自発的に。

一日お世話になったスタジオに感謝するという昔からの教えを守っている。


“今日は疲れたな”

誰もいない静かなスタジオは箒で掃く音だけが木霊する。

私のため息さえかき消されることはない。

つい1時間前は自分が発する音すら飲み込まれそうになっていたのに。


スタジオを見渡すと耳鳴りがする。

まだ音がこの場所に残っている。

だから、掃除をしながら残った音を拾って自分に取り込んでいく。

これが私の反省会。


「よくなってるか」

先輩に言われた言葉を繰り返し呟く。

今日は短く濃い時間だった。

そう思える演奏が出来たと思う。


マイクや、スタンド、椅子を拭き、機材の埃を取る。

コードなどが散らばらない様に巻くが、逆相巻は難しいのだと初めて知った。

こうしていると、裏方の方の大変さがよくわかる。

ライブになれば数え切れないほどのマイクと機材の数々。

その全てがいつもとても綺麗に磨かれている。

機材のコードも私達のパフォーマンスの邪魔にならない様に綺麗にまとめられている。

それがどれだけ地道で大変な作業なのか、身をもって知った。


新しい経験が増えていく。

アイドルの自分では体験する事のなかった経験が。

決して華やかな場所じゃない。

でも、私のパズルを埋めるピースの一つになっている。

まだ新品の匂いのする私。

公立高校の制服を着る私も、パーカーを着る私も。

このバンドでベースを弾く私も。


匂いといえば、どこからともなく漂ってくるコーヒーの匂い。

おそらく店長が豆を挽いているのだろう。


“さて、掃除も終わったし店長にコーヒーご馳走になろう”

コーヒーを少しだけ飲める様になった私もまた新しい私。

掃除道具を片付けベースを背負う。


「ありがとうございました!」

スタジオに深々とお辞儀をする。

ベースが肩から落ちそうになり慌てて顔を上げた。

これからは、気をつけなくてはと思いながら扉を閉めた。

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