新品の2年生 44
「なんか曲っぽくなったな」
豊田先輩は真面目な顔で呟く。
「曲っぽいってなんだよ」
今岡先輩は思わず突っ込みを入れる。
だが、その言葉は私達の総意でもある。
「曲っぽいって言うのは曲っぽいだよ!なんとなくのニュアンスで分かってくれよ!」
受け取り手の感覚に全てを委ねる。
それは思考を停止した様な屁理屈ではある。
しかし、そうなってしまっては、言い返す言葉がない。
なぜなら答えはないのだから。
そんな中、
「上手い人の雰囲気があるって意味だろ?プロのバンドの曲に近づいたって感じだよな」
横井先輩が私達に助け舟を出す。
「そう!それが言いたかったんだ!さすが英太」
さすが横井先輩と私も思った。
よく豊田先輩の事を分かっている。
ただ、そう考えると豊田先輩の言葉はだいぶ大味だったと思う。
「樹の言う通りかもな。1週間前とはだいぶ違う。」
一連の流れが終わったのを見定めていた今岡先輩が言う。
絶妙なタイミングを見極めていたのだろう。
だが、冷静に振り返ったら最初に突っ込みを入れたのは今岡先輩なのだから少しズルくはないだろうかと私は思った。
「柄本が良くなって来たってのもあるしな」
今岡先輩は急に私の方を向き褒める。
「良くなったのは間違いないな。ドラム叩いてる時に俺も叩きやすいなって思ったし」
「リズムが安定して来てるから、俺達もやり易かったよな」
今岡先輩の言葉に豊田先輩と横井先輩は頷く。
「あとは、ミキシング、マスタリングをしたら完成だな」
ついに、このバンドでの私の初めて参加した曲が形になろうとしている。
私もいると声に出して言える曲に。
「ここからは時間のかかる作業だ。前とは違って丁寧さが必要だからな」
店長の言葉を聞いた今岡先輩はまた操り人形の様な姿に戻っていた。
それを見て笑い合う。
制服姿の先輩達といつもと同じパーカースタイルの自分。
いつも通りだが、側から見たら私だけ少し浮いている。
とはいえ、自分も制服を着て行くのは少し違う気がする。
制服はまだ私の匂いじゃないから。




