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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 43

音の余韻などなかった。

肩まで浸かるどころか、軽く手を浸しただけ。

それくらいのスピードで一斉に楽器を置く。


「録音が終わったら、お前ら一斉に楽器置いたな」

録音の機材部屋から出てきていた店長は力が抜けた様に座っている私達4人を見渡し少し呆れている。

自分でも分かるくらい力が抜けてしまった。

音合わせも含め2回しか演奏していないのにこの脱力感。

初めて体感する感覚ではない。

コンサート終わりはいつもこんな感じだった。

先輩達もどうやら同じ感覚なのだろう。

その証拠にぐったりとしている。


“もうなにもできない”

そんな脱力感。

身体の中のエネルギーを全て使い切ったようだ。


「とりあえず、録音した音源を聴いてみよう」

自分に言い聞かせるように立ち上がる今岡先輩。

そうでもしないと立ち上がる気力が身体に湧いてこないのだろう。

今岡先輩に続き、ぞろぞろと立ち上がる私達は音源を録音したパソコンの前に集まる。

合宿3日目の朝のミーティングの風景に近い。

まるで操り人形の如く、なにかに引っ張られている様だ。


コーヒーを飲みながら操り人形の行進を見つめる店長はなんともいえない表情をしている。

だけど、なにも言わずパソコンを操作し音源を再生できる状態にしてくれていた。


「おじさん、悪いけど一回再生してくれない?」

今岡先輩の一言で音が鳴り始める。

すると、さっきまでの脱力した表情が嘘のように真剣な表情に様変わりする先輩達。

それを見て私も慌てて真剣な表情を作る。

だが、その作った表情も自然と真剣な表情になっていく。


1週間前とはかなり違う。

やはり荒さはあるが、だいぶ滑らかになりつつある。

ミスも少なく正確さが増している。

だが、そんな事より先輩達の中に入れている。

演奏中にも少しだけ手ごたえを感じていたが、こうして曲を聴くとより実感できた。

やっとこのバンドの音に私もなりつつある。


“聞いてみよう。あの事を”

自分の中にあった疑問を吐き出そうという気になっていた。

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