新品の2年生 42
“上手く思われたいという思いはない。何かを伝えたいという思いだけ”
少しカッコつけすぎた。
ちょっとは上手く思われたいという気持ちがある。
自分達だけの模様を先生に見せたい。
スパンコールの重なりが多少崩れていても。
きっとその気持ちで演奏出来るのは今しかないから。
そんな青臭い私をあの子が追い抜いていく。
黄色く熟れた葉を巻き上げて。
その時だった。
突風が私の身体を貫く。
急に現実世界に戻された私。
今までの心地よいだけの音ではない。
“音が変わった”
それまで私を包んでいた音ではない。
まるで、激流の様に私を飲み込む。
音の質がここに来て上がっていた。
先輩達がギヤをあげているのが分かる。
初めて体感する先輩達の実力。
私を軽く超えていく。
いや、多分まだ本気ではないかもしれない。そうでなければ、今頃私は激流に流されている筈だから。
やっぱり先輩達は今まで私に合わせてくれていたんだと気づく。
だけど、なんだか嬉しい。
先輩達にまた少し近づけたという事だから。
追いかける私を気にして後ろを見ていた先輩達が、前を向いて走り出したという事だから。
“追いつきたい。追いついて先輩達の隣を歩きたい”
まだ先輩達の通った道をなぞっている。
だけど、その道を自分の足で歩き始めている。
少しづつ自分なりの歩き方で。
先輩達を横目で確認する。
初めて見る顔をしている。
曲が終わろうとしている。
やり切れた安心感があるが、少し寂しい気もする。
ライブのアンコールの最後の曲の様に。
楽しかった。
曲の中に入り込んであの子と追いかけっこをしたのも、先輩達の実力を垣間見えたのも。
レコーディングに入るまではとても苦しかった筈なのに。
喉元過ぎれば熱さ忘れる。
終わろうとしいている今、結局楽しかった。
物語も終わりを告げようとしている。
私はあの子を見送り、笑いながら背を向ける。
楽器が最後の音を響かせると、あの子は笑いながら消えていった。
そして私はベースの弦をそっと手で抑えるのだった。




