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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 41

私は踊っていない。

ここはレコーディングスタジオで自分達のバンドでベースを弾いている。

先輩達もいる。

だった4人しかいないメンバー。

しかも、お世辞にも華やかとは言えない場所にいる。


でもステージで踊っていた時と同じ、自分の中にある気持ちは忘れていなかった。

自分の今いる場所で、自分が持っている力を出せている。


踊りは一切関係ない環境。

だけど、私は踊っている。

楽器という道具を使い音の上で踊る。

それはある意味、グループで踊っていたあの頃と一緒だった。


バンドとは不思議なもので、それぞれが同じメトロノームの揺れに乗り、全く違う音を奏でている。

全く違う音の数々が集まり一つの曲になる。


それは、スパンコールに似ている。

一つ一つは小さくて輝きは小さく、よくみたら色も違うし近くで見たら鱗の様にざらついている。

でも、体積を固めれば固めるほど精巧な形に見え、少ないと粗く見える。


小さなスパンコールを重ねていく。

曲という形を作るために、様々なパートが縫い合わさっていく。

一人一人の音が一つの綺麗な模様になる様に。


この曲がCDになったら誰に渡すのか。

先輩達にはまだ言っていない。

もし言って変な雑念が入ってしまうのが嫌だから。

背伸びしないありのままの自分達を鳩崎先生にはみてもらいたいと思う。


ただ、それは今までやって来た事とは矛盾している。

私達はアイドル。

常にファンの方に見てもらう事を意識して来た。

新しく知ってくれた人に興味を持ってもらいたくて、私達のグループを好きになって貰いたくて。

鏡の前にいても、テレビカメラの前にいても、頭の片隅では常に考えていた。

物語の中に潜り込んで行く私でさえ、その事を忘れたことはなかった。


「夢は大きく、理想は高く」

これが、プロ意識というのだろう。

完璧を求めていた。


だから、今までと違う気持ちに戸惑っていたのかもしれない。

スッピンの着飾らないない自分を外に出すことに。

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