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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 40

ライツカメラアクション


私にとって店長の合図はその様に見えた。

弦を揺らす

揺らしていけばいくほど、どんどん周りの景色が変わっていく。


気づいたら周りの景色は夕方の住宅街。

街は少し落ち着きつつある季節。

その風景の中を制服のまま駆け抜ける“あの子”

先輩達の音があの子の足を弾ませる。

足が弾む度に揺れる髪とスカート。

私のすぐ隣を走り去る。

金木犀の残り香を残して。


振り向いたらもういない。

私はあの子を探すために全力で走る。

かくれんぼか鬼ごっこか。

あの子は華麗に身を翻し、掴むことはできない。


追いかけ続けていると神社に辿り着く。

サイダーの弾ける音。

一気に空気が抜けていく。

神社の階段に座るあの子は赤黄色が乱反射するサイダーを見つめていた。


“柄本の奴ギターより存在感あるぞ”

アクセルを全開で回す様に柄本は走っている。

それに合わせるのがドラムの役目。

横井もギアを上げる。

こうなってくると、ギターの2人もギアを上げざるを得ないだろう。


柄本は立ち止まらない。

抑揚と感情の起伏が噛み合う。

さらに、ベース独特な重さが深みを出しつつある。


木枯らしに吹かれ少し目を離すと透明になったサイダーの瓶がポツンと立っている。

またあの子は木枯らしと一緒に消えしまった。


落ちた葉が足跡となり私に行方を知らせる。

ワルツを踊るあの子。

私は踊るあの子に見惚れていた。

カーディガンが揺れる。


私は今誰を演じているのか。

言葉のいらない距離感であの子を見ていると自ずと答えは出てくる。


黒い短い髪が揺れる。

今は現実の世界の柄本の様子。

ドラムの音に寄り添う様に髪が上下に跳ねる。

コーラスがしっかり今岡の声に重なる。

まるであの子と一緒に遊んでいるかの様に。


自分の世界に潜ってはいるが、バンドの音は聞き逃さない。

あの頃の自分とは表現する立ち位置が違う。

だが、あの頃の自分が培ったものは失っていない。

この1週間でそれを確かめることが出来た。


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