新品の2年生 38
“大丈夫だったのだろうか”
私は不安になっていた。
音合わせを一回しただけで先輩たちはレコーディングの準備を開始し始めたから。
しかも、何もいってくれていない。
自分の中では割と手応えはあった。
だが、先輩たちは何も反応してくれなかった。
“これでよかったのかな”
感じた手応えは泡を掴んだかのように消えていく。
モヤモヤした気持ちを抱えたままに私もレコーディングの準備を開始する。
こういう時素直に感想を聞けたらいいのだが、私はまだ聞くことができない。
“意気地なし”
自分で自分を罵倒する。
先輩たちが何もいってくれないことのせいにしているが、本音は先輩たちの評価が怖くて聞くことができない。
そこに関しては少しも進歩していない。
「柄本もうちょっとタメを意識してみたらどうだ。もっと幅が広がると思うぞ」
横井はレコーディング用のコードを機材に接続しながら呟くように言う。
私は驚いたまま固まる。
不意な一言に虚を突かれた。
「俺なんか変なこと言ったか?」
私のそんな姿を見て不思議に思ったのか、横井先輩は私の方をみる。
「い、いえ!全然そんなことないです!タメですね!意識してみます」
ハッと我に返り慌てて取り繕う。
ちょっと言葉に詰まった事を今凄く反省している。
横井先輩は少し不思議そうな顔をしているものの、納得したのかまた機材の接続に顔を戻した。
なんとか取り繕えたようだ。
少し安心すると同時に、じわじわと横井先輩の言葉が心に染み込んでくる。
いきなりの事だったがたしかに聞いた。
やはり掴んだ手応えは間違いじゃなかった。
私に期待してくれている。
その事が私の体温を上げていく。
“やっとスタートラインかな”
鼻歌を歌いたいのを抑えながら、慣れない手つきで機材を接続していく。
新曲を貰ってから1ヶ月。
やっと自分もバンドのメンバーの一人になりつつあるようだ。
温度の高い血が体中を巡る。
頭の中がクリアになっていくのを感じた。




