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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 37

“柄本今日は調子良さそうだな”

音がそう言っている。

今岡よりも早く柄本の変化に横井は気づいていた。

ドラムというパートの役割の性質上、気づきやすいからだろう。

横目で見る柄本の顔は哀愁を感じる。

その顔は何処となく曲とマッチして見える。


“この表情はズルいよな”

アイドルが好きな自分としてはなんとも言えない気持ちになる。

テレビやDVDで観るアイドル。

画面に映る彼女達はただ輝いているだけではない。

そのパフォーマンスでも魅力してくれる。

だが、表現力が求められる楽曲を見事に表現する事が出来るのは、アイドルの中でも限られた人物しかいない。

楽曲の雰囲気に入り込み、表情や動きでそれを表情する。

普段笑顔の姿を見ているものだから、そのギャップに心を打たれる。

それに近いものを柄本から感じていた。


“さすが元アイドル。16区ナゴヤのフロントメンバーだけの事はあるな”

今まであまりその事を感じなかったが、ここにきて少し感じている。

やはりアイドルは凄い。


だけど、まだまだ楽器の扱いは未熟だ。

相変わらずリズムは走るし、タメやヌキもイマイチあやふやだ。

歌っている最中は特にそうなりやすい。

ベースを弾きながらコーラスをやるという事の難しさにまだ慣れきっていないのだろう。

この時ばかりは柄本の顔が少し引き攣る為、すぐにわかる。


ベースとドラムはリズムを整える大事な役目を背負っている。

多分一番話し合いが多くなるポジションになるだろう。

そういったところも指摘してあげなくてはならないだろうと横井は思っていた。


ドラムを叩く手に力が入る。

自分も負けている訳にはいかない。

人に何かをいう以上自分がミスしていては説得力がない。

しかも、このバンドで唯一ドラムの経験者なのだから尚更だ。


“この感じなら音合わせもう1回やらなくてもいいかもな”

今岡と同じ事を横井も考えていた。

それくらいに良い出来に仕上がりつつある実感があるのだった。

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