表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
85/417

新品の2年生 31

「そういってくれると嬉しいね」

店長は満足そうに頷くと、席を立つ。

レジの奥にある作業部屋に用があるみたいで、奥へと消えていった。


私は1人楽器屋RACKでコーヒーを飲む。

窓の外はすっかり見慣れた景色。

カップにはいつもと違う真っ黒な水面に映る私。


“ホッとする”

深く深呼吸をし、肺いっぱいにコーヒーの香りを満たす。

紅茶もいいが、コーヒーもいい。

苦くて、少し甘い。

ちょっと苦い気持ちの時にぴったりだ。


「ちょうど、貰い物のお菓子があった。せっかくだから、嬢ちゃんも食べな」

店長は作業部屋から、お菓子の箱を出してきた。

滋賀県にある有名なお店のマークに驚く。

中身は、12インチレコード並みの年輪を持つバームクーヘン。

店長はロックな感じに切り私に一切れ取る様に促す。

取り皿はない。

手でつまみ、口の中に放り込む。


“なんて贅沢なんだろう”

少し苦いコーヒーと、甘いバームクーヘン。

バームクーヘンのレコードが奏でる音楽が私の心を弾ませていた。


その後は、特に何を話すでもなかったがコーヒー1杯分の時間を楽しんだ。

帰り道、舌に残るコーヒーの余韻に後ろ髪を引かれながら自転車を漕ぐ。

背負っているベースが少し軽くなった様に感じる。

ゆっくりとした時間が流れる。

そんな様に思える帰り道だった。


柄本が帰って15分後、今岡が楽器屋RACKに来ていた。

ギターを担いでいるところから、スタジオを借りに来たのだとわかる。


「あれ?おじさんコーヒー淹れてたの?」

コーヒーの匂いが広がる店内に、食べかけのバームクーヘン。


「ああ、ちょうどそういう気分でな」

おじさんはそういいながらコーヒーを飲んでいた。

おじさんがコーヒーを淹れる時は気が向いた時か、飲ませたい人が居る時。

今日の場合どちらだっただろう。

聞いても答えてはくれないだろうし、とりあえず俺もおじさんのコーヒーを飲むことにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ