新品の2年生 29
わかっていた。
もう私が帰る場所はないのだと。
分かっていたが、あって欲しかった。
私の居場所がまだあると思っていたかった。
私の抜けた穴は大きいと思っていて欲しくて、後ろ髪を引かれる思いをしたかった。
でも、潔い位未練を断ち切られてしまった。
すでに新しい才能が私の穴を埋めている。
なんならすでに私を超えている。
私には帰る場所はもうない。
そんな気すらした。
ただ、テレビに映る姿から、グループの未来のパズル、1ピースを見れた気がしていた。
それは、グループを巣立ったものだから分かるのかもしれない。
ダブルセンターを見事にやり遂げ先頭に立つあの人は今何を思うのだろう。
すでにメンバー達が前に進んでいるのなら、私も進まなくてはならない。
将来の姿とか、こんな大人になりたいとか、漠然としたままここまで来た。
だが今は、そういったものと向き合っていかなければならない。
過去の姿に後ろ髪を引かれている場合ではないのだ。
そんな事は分かっている。
でも、それを飲み込めない自分もいる。
何かが起きる度に自分の心は2人の自分を生み出してしまう。
ベースを弾く気が起きなくなってしまうくらい。
だから、こうして鏡の前で踊っている。
ついこの間、一心不乱の意味を全身で理解した。
今は一心不乱にダンスを踊りたくてしょうがない。
レコーディングなんて忘れてしまいたいほど。
私が初めに言い出したのに。
きっかけを作ったのは私なのに。
鏡に映る自分に中指を立てたくなる。
こんなにわがままだったんだと、自分の性格にイライラする。
何もかもが嫌いになってしまいそうだ。
「嬢ちゃん。閉店時間だ!そろそろ上がれや」
店長が呼びにくる。
3日間ダンスだけで終わってしまった。
今日こそベースを練習しなくては。
自分にそう言い聞かせる。
そして、レコーディングスタジオの隅に置いていたベースを背負う。
ずっしりと重さを感じるベースは自分の心にも重いものを背負わせていた。




