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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 22

“先輩仕事早過ぎる”

レコーディングした曲を聴きながら思う。

今岡先輩と店長は私達を返した後、2人で作業をしていたらしい。

次の日、今岡先輩に言われ「楽器屋RACK」に行ったら既に音源が出来ていた。


レコーディングといっても、様々な行程に分けられる。

私達は録音作業をしただけで、それだけでは曲にはならない。

そこから様々な調整が行われる。

大まかに言うとミキシングとマスタリングだ。


ミキシングは音の荒いところは滑らかに、ズレているところを調整し、音の小さい所はふくらませ、全体を綺麗に整える作業。

化粧でいえば、ベースメイクを施し、チークやアイシャドウといったパーツメイクで立体感や個性を出していく作業だ。


マスタリングは、編集した音源をCDにする為の作業。

音の大きさや音質を調整し、CDとして完成させる工程だ。

それは、モデルの写真撮影によく似ている。

衣装や化粧で着飾ったモデルをどの様に見せるか。

同じモデルでも、その雑誌の意向やカメラマンの考え方で全く別のものになる。

モデルが突然顔が変わったり、背が伸びたりする訳ではない。

それを受け取り手にどう見せたいか。

そのイメージを形にするのがカメラマンの仕事であり腕だ。

その形が作品となる。


この様に、レコーディング作業は演奏している時間よりも自分達の音を聞いている時間の方が長い。

それだけパソコンとにらめっこしている作業なのだ。


だが、一発録りの音源。

修正しようにも音のデータが少なすぎる。

更に素人の演奏では荒さが目立つ。


結局あの後2回目の録音をする事はなかった。

豊田先輩の言葉もあり、もう一回やるだけのモチベーションを保てなかったのだ。


“相変わらず先輩達に引っ張ってもらってる”

自分達が作った曲を聴きながらため息が出る。

聞けば聞くほどやり直したいポイントばかりだ。


“今回はノイズを取り除いただけで、大してミキシングもマスタリングもしてない。一回聞いてみて自分達の音を感じてみろ”

店長の言葉だった。


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