新品の2年生 19
私は焦っていた。
いつの間にか店長も今岡先輩もいなくなっていたらか。
慌てて階段を降りスタジオに向かう。
その光景を見て愕然とした。
マイクが何本も立ててあり、先輩達は機械にコードを接続していた。
それが、何を意味するか知っているから。
「あの…別に今すぐやろうって言った訳じゃなかったんです。自分でレコーディングをしたいと言いましたが、そんなに焦ってやらなくてもいいじゃないですか」
無駄な気もするが抵抗してみる。
駄目だとしても一応挑戦してみないと結果は分からないから。
「そうだったのか。でも準備もしたし、どうせ覚えなきゃいけないんだから、いい機会じゃないか」
私の抵抗は数秒も検討されることはなかった。
店長が言っていることがあながち間違っていない。
私は攻め手を失ってしまう。
悪い意味で想像通りだ。
だが、この感覚は懐かしい。
先生のせいで、無茶振りには少し慣れてしまっていた。
ため息をつき、ベースの接続に入る。
アイドル時代にもレコーディングは何度もあった。
その時は、流石にメンバー全員でレコーディングする訳ではなく、何人かに分かれて行なっていた。
基本的には、1人づつ一曲全部歌い、ハモりが必要な部分はパート毎に一緒に歌い声を合わせる。
レコーディングをする中で、パート割りが変更になったりすることもあり時間がかかった記憶がある。
曲を作るということの大変さをそこで学んだ。
接続が終わり、試し弾きをする。
店長にパソコンにしっかり接続しているかを確認してもらう。
その間、私は考えていた。
まだ、納得いっていない状態。
自信を持ってレコーディングに挑める訳じゃない。
なのに少し気持ちが高揚している。
自分でも不思議に思う。
真っ白なベースに繋がるコードの束。
足元は機械だらけで落ち着かない。
この落ち着かない気持ちは機械ではないかもしれない。
これから始まることが、少し楽しみになっていた。




