新品の2年生 17
理由はくだらなかったが、割と真面目にやってきたと横井は思っている。
今岡のおじさんが楽器店をやっていて無料でスタジオを貸してくれているのが大きかった。
バンドをやる上で、こんな環境は滅多にない。
そのおかげか、楽しくてどんどん夢中になっていた。
元々、ドラムが好きで小学生の頃からスクールに通っていた。
ただ、ソロのドラマーになりたい訳ではなくドラムを叩ければそれでいいし、いつかはバンドを組みたいと思っていた俺にとっては絶好の機会だ。
初めて今岡が曲を書いてきた時、心が踊った。
曲というには恥ずかしいくらいのものだったが、演奏して修正してを繰り返して曲らしく仕上げた。
その時の体験が習慣になったのだと思う。
今岡の原曲をみんなで編曲する様になったのは。
ライブハウスでライブもする様になった。
ライブとはいっても、イベントに参加するだけのものだったが、それでも高揚した。
やればやるほど、観客の反応も良くなっていった。
ライブハウスの支配人にも気に入って貰えたのか、色んなイベントに呼んでもらえる様にもなった。
成果が出れば、自信に繋がる。
今岡が作る曲は次第に精度を上げていた。
それだけじゃない。
次第に意志を感じる様になっていた。
目標があった訳じゃない。
ただ、もっと色々な曲を作りたい。
音楽をやり続けられたらと漠然と思っていた。
横井だけじゃない。
今岡も豊田も同じ思いだ。
演奏がずば抜けて上手い訳じゃない。
特別な事は何もない。
これがうちのバンドの現状だと思っている。
“このバンドに私を入れてください。”
柄本が頭を下げた時の事は衝撃だった。
当時は、まだアイドルだった彼女。
未だにあの時の彼女の気持ちを理解できずにいる。
「深く考えなくていいんじゃないかな。気を使う方が柄本に、気を使わせちゃうんだろうし。」
こういう時の豊田は無駄にかっこいい。
こんな所が女子にモテるのだろう。
多分、自分には一生真似できない。
横井はそう思った。




