新品の2年生 6
弾けている。
先輩達に引っ張られる様にだが、ついていけている実感がある。
手応えを感じながら演奏はサビに入る。
今岡先輩の声にコーラスで私の声を重ねていく。
これが私の中で一番難しい。
演奏をしながら声を出すだけなら出来る。
だが、声を重ねるとなると話は別だ。
他の音を聴きながら合わせていかなくてはならないのだから。
踊りながら歌う事はずっとやってきた。
でもそれは変わらない音の中でだ。
リズムが走ったり、音がズレたりする生演奏の中で合わせるなんて事は殆どやっていない。
それもあってか、次第に全体が噛み合わなくなっていた。
原因ははっきりしている。
私だけ、テンポがズレているからだ。
音を下で支えなくてはいけないはずのベースがズレてしまうとそれぞれがバラバラになってしまう。
さっきまでは弾けている様に見えたのに、次第に荒さが目立つ様になってしまった。
結局最後の方はボロボロ。
先輩達も苦笑いしていた。
「すまん!テンポちょっと間違えた。」
第一声は今岡先輩だった。
「俺もコード何回か間違えた。」
「いや…俺も周り見る余裕なかった。」
それに続く横井先輩と、豊田先輩。
私は凄く申し訳ない気持ちになる。
「すいません。私が足引っ張ってしまって。」
私は3人に頭を下げる。
自分の為に気を遣わせてしまっているのではないか。
その影響で、先輩達が自分の演奏が出来なくなってしまったのではないか。
そう思えてしまい、自分の不甲斐なさで嫌になる。
最初弾けていると思ったのは先輩に引っ張って貰ったに過ぎないのだと理解した。
いざ、先輩が手を離したらうまく弾く事すら出来なかったのだから。
「調子に乗るな。お前が足を引っ張ったなんて思い上がりだ。」
今岡先輩は真顔で私を見る。
その目は少し怒っている様に見える。
「いいか。俺たちは音合わせから歌を入れる。それは、曲全体のイメージをはっきりさせる為だ。だから、最初にズレが出るってことは当たり前のことなんだ。みんなのイメージが一緒なわけがないんだからな。一回合わせたくらいでイメージが共有できるわけじゃない。」
今岡先輩は続ける。
「そんな状況で、まだ経験の少ないお前を途中で引っ張れなくなった俺たちの方がよっぽど足を引っ張ってる。お前にそう思わせたのなら俺たちの責任だ。」
先輩達は本当にそう思っているのだろう。
でも、その優しい言葉は私をより落ち込ませるのだった。




