新品の2年生 5
ちなみにこのスタジオは店長の好意でタダで貸してもらっている。
いくら今岡先輩の親戚とはいえ、どれだけ懐が深いのだろう。
店長の人間の大きさを感じさせる。
それぞれが何も言わなくても、アンプなどの調整を始めていた。
その作業は慣れたもので、このスタジオを頻繁に使っているのかが分かる。
私も機材の調整を終え、真っ白なベースのチューニング作業を開始する。
この作業が人より少し時間がかかる。
結局チューニングが完了したのは、メンバーで一番最後だった。
「さて、チューニングも終わったし新曲一回通しでやってみるか。」
今岡先輩の言葉に私の心臓の鼓動が一気に速くなる。
先輩達に上手くついていけるだろうか。
正直今の出来では全く自信がない。
「柄本大丈夫か?RACKに入ってきてから顔色悪いぞ。」
豊田先輩は私の顔が暗いのを見逃さなかった。
「そうですか?そんな事ないですよ。」
私は笑って誤魔化す。
先輩達にこの不安を悟られたくなかったから。
「そっか。ならいいけどさ。」
豊田先輩はそれ以上は何も言わなかった。
何も言わなかったのは先輩の優しさだと思う。
「じゃあやるぞ!」
今岡先輩の声でそれぞれが楽器を持つ。
そして、横井先輩がドラムのスティックでリズムを打つ。
この曲の最初は豊田先輩のギターからだ。
その音に合わせ、私と横井先輩がリズムをとる。
その中に今岡先輩のギターが入ってくる。
そして、今岡先輩の歌。
仮音源とは全然違う。
いくら似ていると行ってもデジタルと本物の音は比べ物にならない。
音が耳に飛び込んでくる。
先輩達のリアルな音が私のモヤモヤを吹き飛ばしていく。
これに合わせていけばいい。
演奏をするうちにそう思えてきた。




