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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 4

「柄本も来たことだしやるかな。」

私の表情に気付いているのか分からないが、今岡先輩は一人、店長のいるカウンターまで歩いていく。


「おじさん!スタジオ借りるよ!」

店長の返事を待つより先に、レジ横に掛けてある鍵をとる。

それは当たり前の様に、慣れた手つきだ。


「借りるのはいいが、ちゃんと掃除して返せよ。」

店長も気にしていないのか、今岡先輩を見る事なくギターを磨いている。

我々からしたらもう見馴れた光景だ。


鍵を持った先輩は店の端に歩いて行く。

そこは、ドアノブも鍵穴もなく、ただインテリアのギターが一本掛かっている壁。

扉どころか鍵穴もない平坦な壁だ。

今岡先輩はなんの躊躇もなく掛かっているギターを90度回す。

何かが噛み合った様な音がしたと共に鍵穴が現れる。

その鍵穴に鍵を差し込むと、ガチャンという音と共に壁が奥に旋回していった。


我々からしたら見馴れた光景だ。

だけど、私も初めて見た時は目を疑った。

そしてこの仕掛けから、この楽器屋が普通の楽器屋でない事を悟った。

いきなり楽器屋で練習するから来いと言われた時は、一体何を考えているのだろうと思ったが。


扉の先は地下に続く階段になっており、降りた先にスタジオがある。

そのスタジオは、上のお店とは全く違う。

全面黒の壁に一面だけ大きな鏡。

シックな造りで置いてあるソファーも派手過ぎず落ち着く。

ドラムもアンプなどといったバンドに必要な道具の他に、オーディオインターフェースなどレコーディングに必要な物まで揃っている。

もちろん防音対策はしっかりしており、思いっきり演奏する事が可能だ。


このスタジオは2部屋あり、レコーディングも出来る造りになっている。

アイドル時代は専用のレコーディングスタジオは何回も入ったが、それに匹敵するクオリティと言っていいだろう。

しかも、機械、機材がちゃんと使い込まれている。

上の店に置いてある木の机もそうだったが、人が使ってきた証が残っているのだ。


そんなスタジオで練習する事が出来るなんてなんて贅沢なんだろう。

そう思わずにはいられなかった。

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