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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 3

母の淹れる紅茶は世界一美味しいと思う。

家に帰ったわたしはリビングで母の淹れた紅茶を楽しんでいた。

リビングには紅茶の香りが広がる。


制服からパーカーとジーンズに着替え、一息ついていると私のスマホが鳴る。

画面はみていないが間違いなく今岡先輩だ。

恐らく楽器屋RACKに着いたのだろう。


“先輩達も一回家に帰ってからくればいいのに”

今岡先輩達はいつも学生服を着たまま楽器屋にいる。

しかも、カバンも持ったままであることが多い所から家に帰っていないと考えて間違いないだろ。

楽器はどうしているのだろうといつも不思議に思う。


私も行かなくてならない。

紅茶の匂いに後ろ髪を引かれる思いだが母に行き先を告げ席を立つ。

ベースの入った黒いケースを背負う。

やっぱりケースは重い。


玄関を出ると外はまだ明るかった。

暖かい陽気に包まれながら、白い自転車に乗り商店街に向かう。

自転車を漕ぐ足取りは軽い。

家に帰るまでは凄く憂鬱だったが、紅茶のおかげだろう。

少し肩の力が抜けた気がする。


駅前を抜け商店街へ。

いつもは食べ物の誘惑に負けているが、今日は素通りした。

なんだか食べる気になれない。

楽器屋RACKは相変わらず古びている。

お客さんも誰もいないようだ。

少し重い扉が更に重く感じる。

商店街に入った時から薄々感じていたが、やっぱり憂鬱だ。


宿題をサボり学校に行く子供はこんな気持ちは、こんな気持ちなのだろうか。

どこか後ろめたく、先輩達に会いたくない。

緊張とは違う嫌な感覚だ。


ただ、行かなくてはならない。

意を決して扉を開ける。


「やっと来た!相変わらず遅いな。」

今岡先輩達はいつもの様に使い込まれた机を囲んでいた。

やはり3人とも制服を着ていし、横井先輩を除き2人はギターケースを抱えている。

楽器はどうしているのだろうという疑問は深まるばかりだ。


「今日は寄り道してませんよ!」

強がって笑顔を作っては見るものの顔は硬かった。

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