卒業のあと 50
この景色を見られるのは私がアイドルで今まで頑張ってきたから。
そう思えるコンサートになった。
リハーサルの前に見ていた誰もいない客席は一面私のトレードカラーだった青と白に光り揺れている。
こんなサプライズは聞いていなかった。
ファンの方々は普段、それぞれ好きなメンバーのトレードカラーのペンライトを振る。
こんなに揃っているのは、誰かが言わないとまとまらないはずだ。
泣かないと決めていたのに、一面に広がる青と白の光がぼやけていく。
「夢は大きく、理想は高く」
円陣を組むときはいつもこの言葉を叫ぶ。
目指すのは100%。
ファンの方々が楽しんでくれる事を想像し続けた。
だが、目指せば目指すほど遠かった。
今日のこの景色はそんな私へのファンの方々の評価なのかもしれない。
とびきりの時間を過ごしてきた。
同じ16歳の女子高生では体験出来ない様な時間を。
思い返せばキリがない位濃い時間だ。
そんな時間ももう直ぐ幕が降りようとしている。
シンデレラの魔法が解けるように、このコンサートが終われば私はアイドルから普通の16歳の女子高生に戻る。
セットリストもあと1曲を残すのみとなった。
魔法が解けようとしている。
最後の役割を果たすため、広いステージを歩く。
右手にはマイク。
周りには誰もいない。
ファンの方々のペンライトが眩しく感じる。
正直言えば、何にも準備していない。
何にを話せばいいか。
原稿なんていらない。
今までの経験が口を動かしてくれる。
ステージの中央までたどり着く。
不思議と緊張はない。
なんなら周りを見渡す余裕すらあった。




