卒業のあと 4
「本当ですか!恥ずかしい…」
慌ててパーカーの袖で口元を拭う。
拭いた後の袖を見るとしっかりとソースがついていた。
「1人でたこ焼き食べただろ。」
ズバリその通り。
"楽器屋RACK”
中には様々な種類のギターがずらりと並んでおり、古びた外観とは裏腹に店内は意外とオシャレにまとめられている。
ただ、ギターが店の大半を占めており他の楽器が申し訳程度に隅に置いてある。
その一角に置いてある使い込まれた木の机、そこが私たちの溜まり場だ。
もちろん勝手に決めたのだが。
「相変わらず食いしん坊だな嬢ちゃんは」
店の奥から無地の白シャツを来た男性が現れる。
身長が高く細身でインディゴブルーのジーンズがよく似合う。
髪が長く後ろで結んでおり、パーマをかけているのか毛先が跳ねている。
この店の店長だ。
「こんにちは店長。ちょっと我慢できなくて…」
私の頬が熱くなるのを感じる。
この人と喋ると調子が狂う。
歳は50を超えていると聞いた事があるが、それも相まって渋いかっこいい大人なのだ。
多分私が男でも惚れ惚れすると思う。
そんな店長だか、不思議な事に楽器屋の雰囲気にあっている。
店長の存在で楽器が霞むわけでもないし、楽器の存在で店長が霞むこともない。
森の中に木があるように、お互いにそこにあって当たり前のように混じり合っている。
だから、この店は好きだ。
「これ!張っておいたから!」
そんな店長が黒いギターケースを差し出す。
その仕草も自然だ。
「あ、ありがとうございます!」
深く頭を下げる。
やっぱりこの人を前にすると調子が狂う。
それを隠すように慌ててギターケースを貰い蓋を開ける。
中には真っ白なベースが入っていた。