卒業のあと 43
「それでは聞いてください!16区ナゴヤで…
」
「「「サンプリングオリジナル」」」
生放送の有名テレビ番組で初披露された私達の新曲。
私は初めてメンバーが前にいるという景色にも慣れ、前にいる2人にも頼もしさを感じていた。
あの人は、珠紀にも必死に付いていく。
観客席の反応も上々だ。
難易度の高いダンスも眼を引いている。
そして、大サビの手前。
私のソロのダンスパートがやって来た。
あれから3回振り付けが変更になったパートだ。
メンバーは伏せて私を見守っている。
昨日また振りが変更になり慌てていた事実をみんなは知らない。
私は見せ場を終え、その場にしゃがむ。
観客の声援も最高潮だ。
でも、私はあくまで大サビの前座でしかない。
迎えた大サビ
立って踊っているのはダブルセンターの2人だけ。
後列の5人はしゃがんでいる。
時間にして10秒。
その時間が観客にも、メンバーにも、あの人をセンターとして認めさせる。
才能の片鱗を見せるには十分な時間だった。
さっきの大サビ前の私のダンスが霞むほど、強烈な印象を残す2人。
だが後列の私達が加わった瞬間、一瞬で色を変える。
まるでステージのライトを変えたかの様に一気に光りだす。
花火とは違う消えない光り。
フォーメーション移動のタイミングで、あの人と眼が合う。
ゾッとするほどレッスン場で、鏡に向かう姿とは違う。
普段は細い身体に、雪の様に白い肌、風が吹けば倒れてしまう様な、自ら光ることを避ける不思議な存在。
だが、今はどうだ。
“女優”
その風格がある。
仕事で大女優さんの舞台を見たことがあるが、その人と同じ眼をしている。
会話しているときは、物腰やわらかいのに演じ始めたら圧倒的な迫力で観るものを魅了する。
やっぱり私の観る眼は間違いなかった。
見事にセンターを勤め上げたのだから。
観戦を浴びるあの人はまさに女優だった。




