卒業のあと 41
“暑い。このままいったら夏には干からびてしまうんじゃないかな。”
エアコンの素晴らしさを感じる時期になったなと思う。
取材が終わった私は歩いて、レッスン場に戻っていた。
身体は疲れているが、変更になったダンスをとにかく早く覚えなくてはならないという気持ちがあり更衣室でレッスン着に着替えていた。
更衣室を出て鏡のあるレッスン部屋に向かうとまだ明かりがついている。
私が取材で一回レッスン場をでてから2時間は経っているはず。
“多分あの人だろうな。”
そんなに長い間誰が残っているかは察しがついた。
部屋に入るとやはりあの人が1人でダンスの練習をしていた。
「お疲れ様!また取材?」
鏡に映る私に気づいたのか、あの人はダンスを中断し私の方に身体を向ける。
「うん!今日は2つだった。ありがたい事だけどね。」
先程コンビニで買った水をあの人に渡す。
多分いるだろうと水を2本買っておいて良かった。
「私も急に取材が増えちゃった。取材慣れてないし苦手だからあんまり嬉しくはないよね。」
水の入ったペットボトルを開けならが、力なく笑っている。
あの人は私よりも1つ年上。
敬語を使っていないのは、1期生同士の壁をなくそうとキャプテンが言った為だ。
だが、キャプテンがそう言わなくても、みんなそうなっていたと思う。
おそらく、みんなが思っていたいたことをキャプテンが代弁しただけ。
それがみんなの共通認識だった。
「ピヨちゃんは卒業しちゃうし、私はいきなりセンターだし、これは変な夢を見てるんじゃないかって思ってる。」
ピヨちゃんと私の事を呼ぶのはあの人しかいない。
なんでそう呼ぶようになったかは覚えていないが、私とあの人はあだ名で呼ぶほど仲がいい。
「居残り姉妹」
私達はそう呼ばれていた。
だからこそ、あの人にそう言われると胸に重いものがのしかかる。
なんて言葉を返せばいいのか、私には分からない。
沈黙の時間、ペットボトルについた水滴が床に落ちる音がしたような気がした。




