あの子は透明少女 17
昨晩ホテルでドリンクを作ろうとした時、私は水を買い忘れた事に気づいた。
しかし、部屋にあるのは飲みかけの水。
流石にこれを使うわけにはいかず、ロビーの自販機へと向かったのだが水は売り切れ。
残っていたのはお茶か炭酸水。
仕方なく炭酸水を購入したのだった。
炭酸を抜けばただの水。
そう考えた自分が恥ずかしい。
気の抜けた炭酸水は独特の苦味がある。
その事が頭から抜け落ちていたのだから。
とはいえ、ドリンクがこれしかない以上飲まざるを得ない。
しかも今岡先輩に飲ませてしまった手前、飲まないと言う選択肢も取れない。
しかも、ドリンクがいつもと違うというのも悟られてはいけない。
あくまで、いつもと同じ表情で居なくてはならない。
せっかく少し立ち直ったのに、また崩れてしまいそうだ。
自然に、いつも通りにドリンクを飲む。
その最中、控え室まで届く大歓声。
「fishing is good」の演奏が終わったのだ。
「どうもありがとうございました」
ボーカルの人はやり切った表情を見せる。
ボーカルだけではない。
メンバーの誰もが晴れやかな表情をしていた。
演奏が終わった後、こんな表情が出来たら最高だろう。
いや違う。
このバンドはいつもこんな表情をしている。
予選の時からずっと。
羨ましい。
苦いドリンクを飲みながら苦虫を噛み潰したような表情を抑えて思う。
こんな表情を今までした事があっただろうか。
思い返しても心当たりはない。
インカムを付けたスタッフが、控え室にやってくる。
いよいよ、私達を呼びに来たのだ。
持っていたドリンクを一気に飲み干して水筒の蓋を閉める。
「「vacant land」の方々すみません。機材の調整に少し時間がかかる事になってしまいまして、15分後にまた呼びに来ます」
スタッフさんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「皆さんすみません。機材の調整で15分ほど休憩を取ります。少し待っていてください」
時を同じくしてスペーシー平尾さんが観客に伝える。
急な事に先輩達も動揺していた。
もちろん私も。




