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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
あの子は透明少女
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あの子は透明少女 6

私はストレッチを再開した。

豊田先輩と雑談をしながら。

不思議なもので誰かと会話している時の方が身体が伸びる気がする。


「なんでストレッチしてるんだ?」

開脚して前屈をしていた私は顔を上げる。

「fishing is good」のボーカルが不思議そうな表情で私を見ていた。


「怪我予防です。身体伸ばしておかないと怪我するんで」

ステージでダンスするなんて言えるわけもなく、少し濁した言い方をする。


「怪我予防?そんなステージで暴れる気なのか?」

何故この人は嬉しそうなのだろう。

前座をさせてもらったライブでもそうだ。

無茶振りでステージに呼び込む時もこんな顔をしていた。


「万が一って事もあるじゃないですか!」

その表情に抵抗がある為か、少し強めに返答してしまう。

自分から濁した言い方をしたくせに。


「まあ、分からないではないな。俺もステージではしゃぎ過ぎて捻挫したことあるし」

表情が一気に暗くなる。

また私はやってしまった。

自分が原因で人に気を使わせてしまったのだ。


罪悪感の波に飲まれそうになる中、豊田先輩が口を開く。


「お前らもうすぐ出番だろ?調子どうよ?」

なんと軽い言葉だろう。

ナーバスになっている私からしたらこんな言い回し、間違っても使わない。


「調子?最高に決まってるだろ」

さっきの暗い表情は何処へやら。

一気に自信が漲った顔になる。


これが豊田先輩の凄い所。

軽い言葉でも相手の気持ちを刺激することができる。

これは私が同じ様に言ってもこうはならない。

先輩だからこそこれで成り立つのだ。


人には人のやり方がある。

豊田先輩だけではない。

目の前にいるボーカルの人もそう。

この人が調子がいいと言えば確かにそう見えてくる。

そう見せる力がこの人にはあるのだ。


こればっかりは努力だけでは身につける事は出来ない。

似た様になれるかもしれないが、本当の意味での習得は難しいだろう。

この人達が生きてきた中で培ってきたものには遠く及ばないからだ。


そもそも、ストレッチをしながらあれこれ考える私には向いていないと思う。

悩みの種が増えるだけだから。

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