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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
あの子は透明少女
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あの子は透明少女 5

「なんで驚いた表情してるんだよ。俺、なんか変な事言ったか?」

豊田先輩は笑いながらいう。

この人はこの場で全く緊張していない。

その事実に私は驚愕していた。


「豊田先輩はなんで笑顔でいられるんですか?」

本来なら変に緊張感を与えない為にそういう事は聞かない。

ただ、あまりにも驚いた為、思わず訳を聞いてしまった。


珠紀並みの強心臓。

そういえば、3次選考の時もそうだ。

自問自答していた私に声を掛けてくれた。

あの時も豊田先輩は凄く頼もしく感じたのを思い出す。

先輩が女子にモテるのは顔だけではないのかもしれない。


「俺、テストの結果が悪くて追試だったんだ」


「え?追試?」

これも思わず口にしてしまった言葉。

様々なシュチュエーションを想像していたが、これは頭の中になかった。


「そう追試!受からなかったら俺は夏休みがなかったんだ。だから必死になって勉強した。結果聞くまでは本当に生きた心地がしなかったな」

私の中で作り上げた頼もしい先輩像は偶像だった。

豊田先輩曰く、追試のプレッシャーを乗り越えたらこれくらいの緊張感は大した事ないかの様に感じられるらしい。

先輩なりに死線を潜ったという事なのだろう。


理由は情けないか、説得力はある。

私だって大きなプレッシャーとは何度も戦ってきた。

初めてステージに立った時。

初めてテレビに出た時。

「23区トウキョウ」の先輩達のライブに初めて参加した時。


初めてのプレッシャーの連続だった。

ファンの皆さんの期待に応えられるか。

そのプレッシャーをいつも感じていた。


私は今、誰の期待に応えるつもりなのだろう。

自由なはずなのに。

純粋な評価が欲しかっただけなのに。

何故自分を過大に見せる必要があるのか。

夏休みがあるかないかの追試の方がよっぽど緊張する。


なんて都合よく自分を騙せればいいのだが、頭の片隅ではやっぱり自分を良く見せたい気持ちはある。

いいパフォーマンスが出来るだろうかという不安も。


結局、わたしは誰かに背中を叩かれないと気合の入らないのだろう。

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