卒業のあと 3
「ちょっと楽器屋さんにいってくるから!」
慌てて階段を降りリビングにいる母に声を掛ける。
「気をつけていいくんだよ!」
という母の声も聞こえたか聞こえていないのかというところで玄関を開け飛び出す。
白い自転車に跨り家を出る。
今日は少し自転車のペダルが重い気がする。
きっとあの手紙のせいだ。
“本当に終わったんだな”
少し気持ちが重い。
自分で決めたとはいえ心の中からパズルのピースが失われていく様な気がした。
パズルを壊したのは自分だし、こうなることは分かっているのに気持ちはコントロールが難しい。
そんな事を考えていても身体は勝手に自転車を漕いでいる。
駅に向かっているが相変わらず人通りは少ない。
だからスムーズに駅まで向かえる。
結局一回も信号に引っかかる事なく駅前までたどり着いた。
この街の駅は乗り換えが多いためそれなりに人が集まる。
この時間は学生服を着た子達が多い。
自転車に乗る私とすれ違いに、駅に急ぐ学生服の群れが通り過ぎていく。
誰も振り向かないし誰も気づかない。
それは自然な事だ。
そんな学生服の群れを抜け駅の商店街へと向かう。
シャッター街になっている商店街などざテレビで問題になったりするが、この街の商店街は比較的賑わっている。
特に食べ物の誘惑は凄い。
和菓子屋から飲み屋、お好み焼き屋、焼肉屋、食べ物には困らない。
だが、今は誘惑に負けるわけにはいかない。
黙々と自転車を漕ぎ商店街の一角にある古びた店の前に着く。
「楽器屋RACK」
と書かれたその店、なぜRACKなのかいつも気になっている。
一説によると店の店長がROCKと間違えたと言われているが定かではないし、店長には聞いた事がない。
そんな楽器屋“棚”のドアに手をかけ中に入る。
ドアは見た目より少し重く、でも開けやすい。
「やっと来た!遅いぞ!」
中にいた男子三人は待ちくたびれていた様だ。
が、私の顔を見て急に笑い出す。
失礼だなと思っていると男子の1人が口元を指差す。
「ソースついてるぞ」
私はやっぱり食べ物の誘惑に勝てなかったのだった。